カラヴァッジョ:闇を裂く強烈な光と暴力、絵筆一本でバロックの扉を開けた指名手配の革命児
美術史上の「光と影」の概念を一変させたカラヴァッジョ。キリストの奇跡を生々しいホームレスの姿で描き、殺人罪で追われながらも西洋絵画にテネブリズム(明暗法)の革命を起こした天才の激動の一生。
カラヴァッジョ(本名ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ、1571-1610)は、イタリアの画家です。ルネサンスの理想化された美を捨て、漆黒の闇に鋭い光を差し込ませる劇的な明暗法によって、バロック絵画の扉を開きました。聖人や聖母を、街で見かけるような生身の人間として描いたことが、当時の教会と大衆に大きな衝撃を与えています。
生涯:ローマでの成功、殺人、そして逃亡
1571年、ミラノで生まれました。少年期をミラノ近郊のカラヴァッジョ村(一家の出身地であり、のちの通称の由来)で過ごし、ミラノで画家シモーネ・ペテルツァーノに弟子入りします。20歳前後でローマへ出ました。当初は生活に困窮しますが、フランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿の庇護を得て頭角を現し、1599年にサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂の礼拝堂装飾を任されて一躍名を知られます。
一方で、暴力沙汰の記録が数多く残る人物でもありました。1606年5月、ローマでラヌッチョ・トマゾーニという男との争いの末に相手を死なせてしまい、死刑判決を受けて街を出ます。以後、ナポリ、マルタ島、シチリア島と逃亡を続けました。マルタでは聖ヨハネ騎士団の騎士に叙されますが、まもなく問題を起こして投獄・追放されています。
恩赦を得てローマへ戻ろうとする途上、1610年7月18日、トスカーナのポルト・エルコレで熱病により38歳で亡くなりました。死の詳しい経緯は今も確定していません。
画風の特徴
最大の特徴は、背景を深い闇で埋め、斜め上方から強い光を当てる劇的な明暗法(テネブリズム)です。光は自然光というより舞台照明のように働き、見せたい部分だけを浮かび上がらせます。もうひとつの特徴は、下絵をほとんど描かず、モデルを目の前に置いて直接カンヴァスに描き進めたことです。X線調査では、制作途中で構図を大きく変えた痕跡が確認されています。理想化を拒み、汚れた足の裏や皺の寄った顔をそのまま描いたことが、当時の批判の的でもあり、同時に迫力の源でもありました。
代表作
- 聖マタイの召命(1599-1600年、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂、ローマ):金勘定をする徴税人マタイに、キリストが指を差す瞬間。差し込む一条の光が場面を聖なるものへ変えます。
- ゴリアテの首を持つダビデ(1610年ごろ、ボルゲーゼ美術館、ローマ):切り落とされた巨人の首は、カラヴァッジョ自身の顔として描かれていると考えられています。
- バッカス(1596-97年ごろ、ウフィツィ美術館、フィレンツェ):酒神を、酔った少年の姿でリアルに描いた初期の代表作です。
- 聖母の死(1601-06年ごろ、ルーヴル美術館):聖母を庶民の遺体としてそのまま描き、注文主の教会から受け取りを拒まれた作品です。
- 法悦のマグダラのマリア(1606年、個人蔵):逃亡の直後に描かれたとされ、2016年の日本の展覧会でも公開されました。
同時代の画家との関係
直接の弟子はほとんどいませんでしたが、その画風は「カラヴァッジェスキ(カラヴァッジョ派)」と呼ばれる多くの追随者を生みました。オラツィオ・ジェンティレスキとその娘アルテミジア・ジェンティレスキ、バルトロメオ・マンフレーディ、オランダのユトレヒト派の画家たちがその代表です。彼らを通じて明暗法はヨーロッパ全土へ広まり、スペインのディエゴ・ベラスケスやフセペ・デ・リベーラ、オランダのレンブラント・ファン・レインの光の扱いにも影響が及びました。同時代のローマでは、古典的で調和のとれた様式を掲げたアンニーバレ・カラッチと対照的な存在とされ、両者の対比がバロック絵画の二つの流れとして語られます。
日本で見られるか
カラヴァッジョの真作を常設で所蔵する日本の美術館はなく、国内に主要作品はありません。日本で見られるのは、海外から作品を借りてくる企画展の機会に限られます。2016年には国立西洋美術館ほかで「カラヴァッジョ展」が開かれ、《バッカス》《法悦のマグダラのマリア》などが来日しました。数年に一度あるかどうかの機会なので、展覧会情報を追うことになります。
見どころ
実物の前では、まず光がどこから来ているかを探してください。多くの場合、画面外の左上です。光源は描かれず、当たった結果だけが描かれています。次に、光の当たる面と闇の境目を見てください。中間の階調がほとんどなく、切り替わりが鋭いことが分かります。そして人物の手足です。手の甲の血管、爪の汚れ、足の裏の泥——聖なる場面にこれらが描き込まれていることが、カラヴァッジョの絵が今も生々しい理由です。
代表作ギャラリー








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