藤田嗣治:「乳白色の肌」でパリを熱狂させた、エコール・ド・パリ唯一の日本人スター

藤田嗣治:「乳白色の肌」でパリを熱狂させた、エコール・ド・パリ唯一の日本人スター

画家

おかっぱ頭に丸眼鏡というトレードマークで一世を風靡した藤田嗣治。独自に編み出した「乳白色の肌」の裸婦像で1920年代パリの寵児となり、戦後はフランス国籍を取得して「レオナール・フジタ」となった数奇な生涯。

藤田嗣治(1886-1968)は、20世紀前半のパリで国際的な成功を収めた日本の画家です。「乳白色の下地」と呼ばれる独自の絵肌に、面相筆による細い墨のような線で裸婦や猫を描き、エコール・ド・パリを代表する一人となりました。

生涯:東京からパリへ、そしてフランス人「レオナール・フジタ」へ

1886年11月27日、東京に生まれました。父の藤田嗣章は陸軍軍医で、のちに軍医総監を務めた人物です。東京美術学校西洋画科で黒田清輝に学び、1910年に卒業。1913年にフランスへ渡りました。

パリでは当初困窮しますが、モディリアーニやスーティン、パスキンら各国から集った画家たちと交わります。1919年のサロン・ドートンヌで出品作が入選し、以後急速に評価を高めました。1920年代には乳白色の裸婦像で人気を確立し、おかっぱ頭に丸眼鏡という風貌でも知られる存在となります。1925年にはフランスからレジオン・ドヌール勲章を受けました。

1930年代に南米・アジアを巡ったのち帰国し、太平洋戦争期には陸海軍の依頼で《アッツ島玉砕》などの戦争記録画を数多く手がけます。戦後、この戦争協力をめぐる画壇内の批判に深く傷ついた藤田は、1949年に日本を離れ、以後二度と帰国しませんでした。1950年にパリへ戻り、1955年にフランス国籍を取得、1959年にランスのカトリック教会で洗礼を受けてレオナール・フジタと名乗ります。晩年はランスに自ら設計した礼拝堂(フジタ礼拝堂)を建て、その壁画を描きました。1968年1月29日、スイスのチューリヒで没しています。

画風の特徴

藤田の代名詞が「乳白色の下地」です。近年の科学調査では、硫酸バリウムを含む下地の上に、鉛白と炭酸カルシウムを混ぜた層を重ね、さらに表面にタルク(ベビーパウダーの主成分)を用いていたことが指摘されています。この滑らかで吸い込みの少ない画面の上に、日本画の面相筆で墨を含んだ細い線を一息に引くことで、油彩でありながら日本の線描の切れ味を持つ絵肌が生まれました。主題は裸婦、猫、子どもが中心で、晩年は宗教画や少女像に向かいます。色数を抑え、白と黒と少量の赤褐色で構成する画面が特徴です。

代表作

  • 横たわる裸婦(キキ)(1922年・パリ市立近代美術館)
    • 秋田の行事(1937年・秋田県立美術館):高さ3.65メートル、幅20.5メートルの巨大な壁画。秋田の四季の行事を一画面に収め、夏の部分には竿燈が描かれています。
    • 自画像(1936年・秋田県立美術館):畳と襖の和室に日本的な調度を配して自らを描いた作品で、藤田のセルフイメージを伝えます。
      • アッツ島玉砕(1943年・東京国立近代美術館):戦争記録画の代表作。米国から無期限貸与された作品群の一つです。
      • ランス・ノートルダム・ド・ラ・ペ礼拝堂の壁画(1966年・フランス、ランス):最晩年に自ら手がけた宗教壁画です。

    同時代の画家との関係

    東京美術学校では黒田清輝に学びましたが、その外光派の画風には収まりませんでした。パリではモディリアーニ、スーティン、パスキン、キスリングらエコール・ド・パリの画家たちと親交を結び、ピカソの作品にも早くから触れています。日本人としては、同じくパリに渡った小柳正や、後年の東郷青児らと交わりました。日本の洋画界では、戦後の戦争画をめぐる論争で宮本三郎や宮田重雄らとの間に確執が生じ、これが藤田の出国の一因となりました。

    日本で見られるか

    常設で藤田を鑑賞できる施設は複数あります。秋田県立美術館(秋田市)は《秋田の行事》を専用の展示室で常設公開しており、平野政吉コレクションの藤田作品を通年で見ることができます。軽井沢安東美術館(長野)は藤田作品のみを集めた美術館です。ポーラ美術館(神奈川・箱根)も充実した藤田コレクションを持ち、乳白色の下地の科学調査を進めてきました。東京国立近代美術館は《アッツ島玉砕》をはじめとする戦争記録画を所蔵し、企画に応じて公開しています。

    見どころ

    実物の前では、まず裸婦の肌に光がどう当たっているかを見てください。絵具の凹凸がほとんどなく、陶器のように平滑で、絹のような艶があります。次に輪郭線です。震えも途切れもない細い線が、肌の縁を一気に走り抜けます。この線は下地の上に置かれているため、にじまず、まるで紙に描かれた墨のように見えます。そして背景の何もない白い部分に注目を。塗り残しではなく、丹念に作り込まれた面であることが、近づくとわかります。《秋田の行事》では、20メートルの画面を端から端まで歩いて、四季が移り変わる構成を体で確かめてみてください。