渋谷区立松濤美術館:白井晟一の石の名建築で、静かに濃い企画展を

渋谷区立松濤美術館:白井晟一の石の名建築で、静かに濃い企画展を

美術館

1981年開館。哲学の建築家・白井晟一が設計した花崗岩の建物は、中央の吹き抜けに噴水を配した瞑想的な空間。閑静な松濤の住宅街で個性的な企画展を開き続けています。

はじめに:住宅街に潜む石の宝石箱

渋谷区立松濤美術館は、1981年(昭和56年)10月に、渋谷・松濤の閑静な住宅街に開館した区立の美術館です。渋谷駅の喧騒から歩いて15分ほどとは思えない静けさのなか、赤みを帯びた花崗岩に包まれた重厚な建物が不意に現れます。設計は「哲学の建築家」と呼ばれた白井晟一。晩年の代表作にあたるこの建物を目当てに訪れる建築ファンが絶えない、東京の隠れた名建築です。

建築:白井晟一がつくった精神の空間

敷地が住宅街のため、建物は外へ大きく開かず、内側へ向かって空間を掘り下げるようにつくられています。中央は地下から屋上まで貫く楕円形の吹き抜けで、その底には噴水が置かれ、水音が館内に静かに響きます。吹き抜けに架けられたブリッジ、丸みを帯びた壁、真鍮の手すり、オニキスの照明といった細部まで白井の美学が徹底されており、美術品より先に建物そのものに見入ってしまうほどです。2階には来館者がくつろぎながら過ごせる「サロン・ミューゼ」が設けられ、区民が美術を語らう場をつくりたいという開館時の思想が今も生きています。

企画展:切り口の妙で知られる展覧会

大規模な常設コレクションの公開を主目的とせず、年に数本の企画展で勝負するのが当館のスタイルです。日本や東洋の古美術、近代の知られざる画家、現代美術、写真、デザイン、さらには建築や工芸まで、他館があまり手をつけないテーマを掘り下げる展覧会が多く、美術ファンのあいだで「玄人好み」と評されてきました。展示室は決して広くありませんが、そのぶん一点一点をゆっくり味わえます。区民ギャラリーとしての公募展示も行われ、地域に開かれた施設でもあります。展示室が地下と2階に分かれているため、階段や吹き抜けを移動しながら鑑賞することになり、建築を歩く体験と作品を見る体験が自然に重なっていくのもこの館ならではです。

設計者・白井晟一という人

白井晟一(1905〜1983)は、京都高等工芸学校の図案科に学び、ドイツに留学してハイデルベルク大学などで哲学や美術史を修めたのち、建築の道へ進んだ異色の経歴の持ち主です。流行の様式に与せず、石や木といった素材の重みと、そこに宿る精神性を追い求めた作風で知られ、書家としても高く評価されました。松濤美術館は彼が70代半ばで手がけた晩年の作にあたり、その思想が凝縮された建築として、開館から40年以上を経た今も建築家や学生の見学が絶えません。2021年には開館40周年を記念して白井晟一そのものを主題とする展覧会も開かれました。

3つの見どころ

白井晟一の建築:石の外壁、楕円の吹き抜け、地下の噴水。建物そのものが最大の展示品といっても過言ではありません。

個性派の企画展:テーマ設定の妙で知られ、会期ごとにまったく違う顔を見せます。会期を確かめて訪れる価値があります。

邸宅のような鑑賞体験:サロン・ミューゼのソファに腰かけて休みながら見る時間は、大型美術館では味わえないぜいたくさです。

施設情報・アクセス

住所:〒150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14

アクセス:京王井の頭線「神泉」駅から徒歩約5分、JR・東京メトロほか「渋谷」駅から徒歩約15分

開館時間:10:00〜18:00(展覧会により変更あり。入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休)、展示替え期間、年末年始

観覧料:展覧会ごとに異なります。渋谷区民は割引が適用されます。