りんご採り(ピサロ):最後の印象派展に並んだ、点描の果樹園

りんご採り(ピサロ):最後の印象派展に並んだ、点描の果樹園

名画
作者
カミーユ・ピサロ
制作年
1886年
所蔵
大原美術館
所在地
岡山県倉敷市

印象派の長老ピサロが点描の技法で描いた1886年の《りんご採り》。パリで開かれた最後の印象派展に出品された一点で、1917年にはすでに日本へ渡っていました。いまは倉敷の大原美術館の本館で公開されています。

カミーユ・ピサロが1886年に描いた《りんご採り》は、りんごを摘む三人の働き手を、細かな色の点の集まりで描いた大きな油彩画です。印象派の最後の展覧会に出品された記念すべき一点で、いまは岡山県倉敷市の大原美術館にあります。日本にいながら、印象派が次の時代へ踏み出した瞬間に立ち会える作品です。

りんご採りとは

カミーユ・ピサロ(1830〜1903年)は、印象派のグループ展に第1回から最終回まですべて参加した唯一の画家です。《りんご採り》は1886年の作で、技法は油彩・画布、寸法は縦125.8×横127.4センチとほぼ正方形。左下に「C. Pissarro, 1886」の署名と年記があります。

画面には三人の姿があります。中央に立つ女性は長い棒を手にして、枝のりんごを叩き落とそうとしています。右手前では別のひとりが腰をかがめ、地面に散った実を編み籠へ拾い集めています。そして左手前には、赤い模様の頭巾をかぶった女性が腰を下ろし、手にしたりんごを口もとへ運んでいます。かたわらの籠は、すでに実でいっぱいです。

目を引くのは絵肌です。ピサロはこの時期、若いスーラやシニャックの理論に共鳴し、絵の具を混ぜずに小さな点で並べていく描き方に取り組んでいました。草地の緑、衣服の青、木漏れ日の黄。どれも近づいて見ると細かな色の粒でできています。右下の道は黄と橙と青の点が入り混じり、離れて見ると強い日ざしに白く輝いて感じられます。

どこで見られる?

  • 所蔵先:大原美術館(本館)
  • 所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15
  • 展示状況・観覧料:コレクション展「OHARAコレクション・ハイライト―19世紀から現代まで」(2026年7月15日〜9月27日)の展示作品リストに、本館1室の出品作として掲載されています。観覧料は一般2,000円、小・中・高校生500円、小学生未満は無料です。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 最後の印象派展に出た絵:この作品は1886年、パリで開かれた第8回印象派展に出品されました。同じ会場にはスーラの《グランド・ジャット島の日曜日の午後》も並び、印象派から新印象派へ移る節目の展覧会となりました。
  • 点でできた光:近づけば粒、離れれば光。鑑賞する距離を変えるだけで見え方が変わるので、展示室では前後に動きながら眺めるのがおすすめです。
  • 正方形に近い画面:縦125.8×横127.4センチというほぼ正方形の形が、上下左右へ広がる果樹園の眺めを、絵の中で静かに落ち着かせています。

この絵が日本にある理由

ピサロは1884年、パリの北西にあるエラニーという小さな村へ移り住みました。《りんご採り》は、その村の果樹園と、そこで働く人々を描いた一連の作品のひとつです。大原美術館は、倉敷の実業家・大原孫三郎(1880〜1943年)が、支援していた洋画家・児島虎次郎(1881〜1929年)に託して集めた西洋美術を公開するため1930年に開館した、日本で最初の西洋美術中心の私立美術館です。

記録に残る来歴をたどると、この絵は画家の妻ジュリー・ピサロの手元から1913年にパリのベルネーム=ジュヌ画廊へ移り、1917年には上河源右衛門と大阪の三角堂画廊の名前が現れます。つまり第一次世界大戦のさなかに、すでに日本へ渡っていたことになります。そのうえで1941年に大原美術館の所蔵となりました。大原孫三郎と児島虎次郎が集めた核となる作品群の多くは1920年から1923年ごろにパリで買われたものですが、《りんご採り》はそれとは別の経路で日本へ入り、後から美術館に加わった一点なのです。日本人が印象派の名画を買い集めていた時代の空気が、この来歴から伝わってきます。

この絵は日本に来てからも動いています。額の裏には、2004年にシカゴ美術館で開かれたスーラと《グランド・ジャット島》をめぐる展覧会のラベルが残っており、近年も海外の大きな企画展へ貸し出されてきたことが分かります。倉敷の展示室にいる一枚が、いまも国際的な研究の対象であり続けているということです。

まとめ

《りんご採り》は、印象派が新印象派の技法と出会った時期を代表するピサロの一点です。パリの最後の印象派展をへて100年以上前に日本へ渡り、いまは倉敷で公開されています。点の一粒一粒が見える距離まで近づけるのは、実物ならではの体験です。