マルトX夫人―ボルドー:ロートレックが最晩年に残した油彩の肖像
- 作者
- アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
- 制作年
- 1900年
- 所蔵
- 大原美術館
- 所在地
- 岡山県倉敷市
ロートレックが亡くなる前年の1900年に描いた肖像画で、岡山県倉敷市の大原美術館が所蔵します。白い衣装の女性を椅子に座らせ、静かにとらえた油彩です。児島虎次郎が集めた大原コレクションの名品として、本館第1室で公開されています。
アンリ=マリー=レーモン・ド・トゥールーズ=ロートレックが1900年に描いた《マルトX夫人―ボルドー》は、岡山県倉敷市の大原美術館が所蔵する肖像画です。ポスターの名手として知られる画家が、亡くなる前年に残した油彩の肖像として貴重な一枚です。児島虎次郎が集めた大原コレクションの名品として、本館第1室で公開されています。
《マルトX夫人―ボルドー》とは
大原美術館の作品データによれば、制作年は1900年、技法は油彩・カンヴァス、寸法は90.0×80.3センチです。英題は「Madame Marthe X ―Bordeaux」。白い衣装をまとった女性が椅子に腰かけ、右を向いた横顔をこちらに見せています。右腕を肘掛けに預け、髪を結い上げた姿を膝上あたりまでとらえた、落ち着いた構図の半身像です。
ロートレック(1864〜1901年)は、パリのモンマルトルの酒場や劇場を題材にしたポスターと版画で名を知られた画家です。しかし飲酒による健康の悪化で1899年に療養生活を送り、1901年に36歳で世を去りました。本作が描かれた1900年は、その死の前年にあたります。副題の「ボルドー」はフランス南西部の都市名で、画家が晩年に滞在した土地です。喧噪の描写で知られる画家が、静かな室内で一人の女性と向き合った、最晩年ならではの作品といえます。
どこで見られる?
- 所蔵先:大原美術館
- 所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15
- 展示状況:本館第1室に展示中です(公式サイトが公開する展示作品リスト2026年7月15日版による)
- 観覧料:一般2,000円、高校・中学・小学生500円、未就学児無料。開館時間は3月から11月が午前9時から午後5時(最終入館午後4時30分)、12月から2月は午前9時から午後3時(最終入館午後2時30分)です
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- ポスターの画家が描いた油彩肖像:軽やかな線と大胆な色面で知られるロートレックですが、この作品では一人の女性の姿をじっくりと油彩で追っています。版画やポスターの印象しかない人ほど驚く一枚です。
- 白い衣装と横顔:白い衣装が画面の大部分を占め、右を向いた横顔がくっきりと浮かび上がります。装飾を削ぎ落とした構図が、モデルの表情に視線を集めます。
- 最晩年という時期:亡くなる前年の作という事実を知ってから見ると、静けさの意味が変わってきます。ボルドーという土地の名を添えた副題も、画家の晩年をたどる手がかりです。
この絵が日本にある理由
大原美術館は1930年、倉敷の実業家・大原孫三郎(1880〜1943年)によって開館した、日本で最初の西洋美術を中心とする私立美術館です。孫三郎は画家で友人の児島虎次郎(1881〜1929年)に三度の渡欧を促し、「日本の若い画学生に西洋絵画を」という虎次郎の思いを支えました。虎次郎は日本人としての感覚を総動員してヨーロッパの作品を選び取る作業に熱中し、エル・グレコやゴーギャン、モネ、マティスなどをパリを中心に買い集めています。
《マルトX夫人―ボルドー》も、その虎次郎による収集品と伝えられます。ロートレックが亡くなってからまだ20年ほどしか経っていない時期に、日本人の目でこの画家の油彩が選ばれたという事実は、大原コレクションの先進性を物語ります。本館第1室にはコロー、クールベ、ピサロ、モネ《睡蓮》、ゴーギャン《かぐわしき大地》、ホドラー《木を伐る人》なども並び、19世紀から20世紀初頭の西洋絵画の流れをひと部屋でたどれます。
まとめ
《マルトX夫人―ボルドー》は、ポスターの画家という肩書だけでは語りきれないロートレックの一面を見せてくれる作品です。倉敷の美観地区に建つ大原美術館の本館第1室で、印象派やポスト印象派の名品と並べて鑑賞できます。大原美術館は展示替えや他館への貸出を行っており、常に同じ作品が並んでいるわけではありません。訪問前に公式サイトの展示作品リストで確認しておくとよいでしょう。