木を伐る人(ホドラー):スイス紙幣を飾った、斧を振り下ろす一瞬

木を伐る人(ホドラー):スイス紙幣を飾った、斧を振り下ろす一瞬

名画
作者
フェルディナント・ホドラー
制作年
1910年
所蔵
大原美術館
所在地
岡山県倉敷市

スイスの画家ホドラーが1910年に描いた《木を伐る人》。斧を振り下ろす木こりの姿は、スイスの50フラン紙幣の意匠にもなりました。1922年に児島虎次郎の手で日本へ渡り、いまは倉敷の大原美術館の本館で見ることができます。

斧を大きく振りかぶり、いままさに振り下ろそうとする木こり。スイスの画家フェルディナント・ホドラーが1910年に描いた《木を伐る人》は、労働の一瞬を画面いっぱいに引き伸ばした油彩画です。この絵は岡山県倉敷市の大原美術館が所蔵し、本館の展示室で実物を見ることができます。

木を伐る人とは

フェルディナント・ホドラー(1853〜1918年)は、19世紀末から20世紀初頭のスイスを代表する画家です。大原美術館の《木を伐る人》は1910年の作で、技法は油彩・画布、寸法は130.8×100.7センチ。画面右下に「F. Hodler 1910」の署名と年記が入っています。原題はドイツ語で「Der Holzfäller」といいます。

描かれているのは、縞のシャツと濃い緑の作業ズボンを身につけた男がひとりだけです。両脚を大きく開いて雪の上に踏ん張り、頭上高くに構えた斧を、いままさに振り下ろそうとしています。背景は白っぽく明るく、遠景の風物はほとんど省かれ、代わりに細い木の幹が画面の左右で垂直に立っています。ホドラーは同じ形やリズムを平行に繰り返す構成を好み、その造形原理は「パラレリズム」と呼ばれました。まっすぐ立つ幹と、斜めに突き刺さる身体の対比が、静かな画面に強い運動を生んでいます。

この図像はスイスでは広く知られています。ホドラーは1911年に発行が始まったスイスの第2次銀行券のうち、50フラン紙幣と100フラン紙幣の表裏の図案を手がけており、50フラン紙幣の裏面には《木を伐る人》と同様の絵が刷られていました。この紙幣は1958年ごろまで長く流通しています。つまり当時のスイスの人々は、この木こりを毎日のように手にしていたことになります。

どこで見られる?

  • 所蔵先:大原美術館(本館)
  • 所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15
  • 展示状況・観覧料:コレクション展「OHARAコレクション・ハイライト―19世紀から現代まで」(2026年7月15日〜9月27日)の展示作品リストに、本館1室の出品作として掲載されています。観覧料は一般2,000円、小・中・高校生500円、小学生未満は無料です。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 止まって見える一瞬:振り上げた腕から後ろに伸ばした足先までが一本の対角線でつながり、次の瞬間の轟音まで想像させます。いちばん速い動きを、絵はあえて止めて見せています。
  • 縦と斜めの対比:画面の左右に立つ細い木の幹はほぼ垂直で、男の身体だけが斜めに走ります。平行と反復を重んじたホドラーらしい画面の組み立て方です。
  • 雪と余白:足元には雪が積もり、上方は塗り残されたように淡く広がります。青い雲のような形がひとつ浮かぶだけで、視線は自然と人物へ集まります。

この絵が日本にある理由

大原美術館は、倉敷紡績などを率いた実業家・大原孫三郎(1880〜1943年)が、支援していた洋画家・児島虎次郎(1881〜1929年)に託して集めた西洋美術を公開するため、1930年に開館しました。日本で最初の、西洋美術を中心とする私立美術館です。日本の若い画学生に本物の西洋絵画を見せたいという虎次郎の願いが出発点でしたが、その虎次郎は1929年に世を去り、開館を見ることはありませんでした。

《木を伐る人》の来歴をたどると、ベルリンの個人蔵からベルリンのパウル・カッシーラー画廊へ渡り、1922年に児島虎次郎を通じて大原孫三郎が入手したと記録されています。虎次郎が三度目の渡欧をしていた時期にあたります。買われた作品はすぐ倉敷の人々に公開され、この絵は1923年に倉敷尋常高等小学校で開かれた「第3回泰西名画家作品展」に並びました。さらに1927年には恩賜京都博物館の「泰西名画展」、1928年には東京府美術館の「泰西美術展」にも出品されています。美術館が建つ前から、日本の人に本物を見せるために各地を回っていた一点なのです。

まとめ

《木を伐る人》は、スイスの紙幣を通じて多くの人の手元にあった図像の、その大もとにあたる油彩画です。1922年に日本へ渡り、美術館の開館前から倉敷や京都、東京で公開されてきました。倉敷を訪れたら、斧が止まったままの一瞬をぜひ間近で見てください。