生々流転:全長40メートル、水の一生を追う横山大観の水墨絵巻
- 作者
- 横山大観
- 制作年
- 1923年
- 所蔵
- 東京国立近代美術館
- 所在地
- 東京都千代田区
- 指定
- 重要文化財
一滴の水が渓流となり大河となり、海で龍となって天へ昇るまでを、墨だけで全長約40メートルに描いた重要文化財。東京国立近代美術館が所蔵し、全巻をまとめて公開できるのは企画展を行うときに限られます。
生々流転は、横山大観が1923年に描いた全長およそ40メートルの水墨画巻です。空中の水蒸気から生まれた一滴の水が、渓流となり大河となって海に注ぎ、やがて龍の姿をとって天へ昇るまでを、途切れることなく描き切っています。重要文化財に指定され、東京国立近代美術館が所蔵しています。
生々流転とは
1923年(大正12年)の作品で、絹本の墨画による画巻です。寸法は縦55.3センチ、長さ4070センチ。およそ40メートルに及び、日本で最も長い画巻として知られます。1967年に重要文化財へ指定されました。
彩色は用いず、墨の濃淡だけで描かれています。冒頭は霧に沈む山中の情景から始まり、雨だれが集まって細い流れとなり、滝となって落ち、渓谷を刻み、やがて人里を潤す大河へと育ちます。河口では嵐が起こり、荒れる海の上で水は龍となって天へ還っていきます。
登場するのは水だけではありません。流れのほとりには木を切る人、漁をする舟、川を渡る人々、家並みが小さく描き込まれ、水が人の暮らしと関わりながら下っていく様子が示されます。ただしそれらはあくまで通過点で、画面の主役は最初から最後まで水そのものです。人間の営みは、水の長い旅路のなかに現れては消える一場面として扱われています。
どこで見られる?
- 所蔵先:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園)が所蔵しています。
- 公開状況:常設で全巻が見られる作品ではありません。同館は、全長を一度に展示できるのは1階の企画展会場を使うときだけだと説明しており、全巻公開は特別展など限られた機会に行われます。
- 映像での鑑賞:同館は2022年に新たに撮影した画像をもとに4K高精細映像を制作・公開しており、実物が展示されていない時期でも内容をたどることができます。
- 所在地:東京都千代田区北の丸公園、東京メトロ竹橋駅から徒歩約3分です。
公開時期は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 始まりと終わりがつながる構成:一滴の水滴から始まり、龍となって天に昇るという展開は、再び雨となって地に降ることを暗示します。題名が示す循環が、巻物という形式そのもので表現されています。
- 墨だけで描き分けた水:霧、飛沫、渓流、濁流、嵐の海と、性質のまったく異なる水がすべて墨の濃淡で描き分けられています。にじみとかすれの制御が、そのまま水の質感の変化になっています。
- 視野が開いていく感覚:巻を繰るにつれ、山中の細部から広大な河口へと視野が広がります。鑑賞者が画面をたどる速度がそのまま時間の流れになる、絵巻ならではの仕掛けです。
描かれた背景
大観は郷里の水戸ゆかりの家から贈られたという貴重な中国製の墨を用い、生涯を賭けるにふさわしい大作としてこの画巻に取り組んだと伝えられます。完成した生々流転は1923年9月1日、上野公園の竹之台陳列館で開幕した再興第10回院展に出品されました。
ところが、その開幕当日に関東大震災が発生します。会場周辺も甚大な被害を受けましたが、生々流転は失われずに残りました。災厄を生き延びた水の絵巻という経緯もあいまって、本作は近代日本画の記念碑として語り継がれています。水が姿を変えながら循環するという東洋的な自然観を、近代の展覧会という場に提示した点でも画期的な作品でした。
題名の「生々流転」は、万物が生まれては変化し、絶えず移り変わっていくという意味の言葉です。大観はこの循環する時間の感覚を、西洋絵画では扱いにくい巻物という形式に託しました。壁に掛けて一望する絵ではなく、手で繰りながら時間をかけて読み進める絵。形式そのものが主題と一体になっている点に、この作品の独創があります。
まとめ
生々流転は、水の一生という主題を40メートルの画面に託した日本近代美術の到達点のひとつです。全巻が公開される機会は多くありませんので、東京国立近代美術館の展覧会情報をこまめに確認し、機会があれば巻頭から巻末まで歩きながら味わってみてください。


