舞台袖の3人の踊り子:シルクハットの紳士が立つ、ドガが描いた舞台裏
- 作者
- エドガー・ドガ
- 制作年
- 1880-85年頃
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
ドガが1880〜85年頃に描いた、オペラ座の舞台裏の一場面。書割の陰で出番を待つ3人の踊り子と、シルクハットをかぶった紳士の黒いシルエットが向き合います。国立西洋美術館が2016年に購入した作品で、常設展で公開されています。
エドガー・ドガ《舞台袖の3人の踊り子》は、1880〜85年頃に描かれた油彩画です。舞台の書割の裏で出番を待つ踊り子たちの間に、シルクハットをかぶった紳士の黒いシルエットが立っています。国立西洋美術館が2016年に購入した、比較的新しい収蔵作品です。
《舞台袖の3人の踊り子》とは
技法は油彩・カンヴァス、寸法は54.6×64.8センチメートル、左上に「Degas」の署名があり、所蔵番号はP.2016-0001です。バレエはドガにとって最も重要な主題で、全作品の過半数が踊り子を題材にしています。ドガは生家の近くにあった旧オペラ座で若い頃からバレエに親しみ、知人や友人の力を借りて、稽古場や楽屋といった公衆の目から遠ざけられた舞台裏にも通じていきました。
本作に描かれているのは、その舞台裏の一場面です。3人の踊り子のうちひとりは紳士と言葉を交わしているように見えます。当時、オペラ座の席を通年で買った年会員には、一般客が入れない舞台袖や楽屋への出入りが認められており、富裕層の男性がその特権を使って踊り子に近づくことがありました。踊り子の側にも、社会的地位のある男性を後援者とする動機がありました。こうした舞台裏の関係は当時の大衆小説や諷刺画の題材にもなり、ドガは少年時代からの親友リュドヴィック・アレヴィが1872年から発表したカルディナル家の連作短編(のちに1883年『カルディナル家の人々』としてまとめられた)の挿絵とするため、1876〜77年頃にオペラ座の舞台裏を主題とするモノタイプ連作を制作しています。同館は、本作の着想がこの連作と密接な関係にあると考えられると述べています。制作年については1870年代後半とする説もありますが、カタログ・レゾネ補遺などは1880年代前半を採っています。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館(所蔵番号 P.2016-0001)
- 所在地:東京都台東区上野公園7-7
- 展示状況・観覧料:2026年8月時点で、同館の所蔵作品検索は本作を常設展で「展示中」と表示しています。常設展(コレクション展)の観覧料は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 黒いシルエットの紳士:観客の目から隠れた4人のひそかな会話を、鑑賞者は間近で目撃することになります。美しい舞台の裏側にある人間関係まで描くのがドガです。
- むき出しのカンヴァス:右端の踊り子の衣装に当たる光は、カンヴァスの白い下地を露出させ、乾いた筆か布のようなもので絵具をこすりつけて表されています。ざらついた下地、艶のない下塗り、光沢のある上塗りが一枚の中に共存します。
- 右に寄せた非対称の構図:書割の陰に人物を右側へ寄せる型は、1876年の第2回印象派展に出た《黄色の踊り子たち(舞台袖)》以来ドガが繰り返したもので、本作にも受け継がれています。
この絵が日本にある理由
本作は1893年5月、ブッソ・ヴァラドン商会の台帳に登録されました。仕入先はドガと親しかったミシェル・マンツィで、画家から直接渡ったと考えられています。翌6月にはアメリカの実業家ハリス・ホイットモアが購入し、以後およそ60年、彼の会社と家族が受け継ぎました。
1985年にニューヨークのオークションで売却されたのち、1988年から1999年までは日本の個人収集家が所有していた時期があります。その後ふたたびアメリカの個人収集家の手に渡り、その継承者から国立西洋美術館が2016年に購入しました。松方コレクションとは無関係で、21世紀に入ってから館が自ら買い集めた近年の収蔵品にあたります。2019年から2020年にかけては、パリのオルセー美術館の「Degas at the Opera」展にも貸し出されました。
まとめ
《舞台袖の3人の踊り子》は、ドガが繰り返し描いた舞台裏の主題を、粗削りな絵肌ごと味わえる一枚です。踊り子と紳士の距離、そしてカンヴァスの地が透ける右端の衣装に注目してください。常設展で展示されているので、上野で気軽に会いに行ける近代絵画です。


