エル・グレコの十字架のキリスト:炎のように伸びた身体が語る晩年の様式

エル・グレコの十字架のキリスト:炎のように伸びた身体が語る晩年の様式

名画
作者
エル・グレコ
制作年
17世紀初頭
所蔵
国立西洋美術館
所在地
東京都台東区

国立西洋美術館が所蔵する、エル・グレコ晩年の宗教画です。炎のように引き伸ばされた身体と荒々しい筆致、現実離れした色彩が大きな特徴。スペインのアルバ公家からパリの画商を経て、1974年に同館が購入しました。上野の常設展で公開されています。

国立西洋美術館の常設展には、エル・グレコの《十字架のキリスト》があります。細く引き伸ばされた身体と荒々しい筆づかいで、十字架上のキリストを描いた宗教画です。日本でエル・グレコの油彩を落ち着いて見られる機会は多くなく、上野は貴重な場所のひとつになっています。

十字架のキリストとは

エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス、1541-1614年)による油彩・カンヴァスの作品です。大きさは95.5×61センチ、国立西洋美術館の所蔵番号はP.1974-0001です。制作年は特定されていませんが、画風から晩年の作と考えられています。

エル・グレコはギリシアのクレタ島カンディア(現在のイラクリオン)に生まれ、ビザンティン美術のイコン画の伝統のなかで画業を出発しました。その後ヴェネツィアとローマで西欧絵画の技法を学び、最後はスペインのトレドに定住して同地で亡くなっています。東方の様式と西欧の技法が重なり合ったところに、この画家独自の造形が生まれました。

本作でも、暗い空を背にした十字架上のキリストが、まるで炎が立ちのぼるかのように縦へ引き伸ばされています。国立西洋美術館の解説も、揺らめく炎のように引き伸ばされた人体、荒々しい筆致、超自然的な色彩といった点に、エル・グレコ晩年の様式を認めています。画面下部にはギリシア文字による署名が記されており、クレタ島出身という出自を生涯手放さなかったことがうかがえます。

どこで見られる?

  • 所蔵先 国立西洋美術館(独立行政法人国立美術館)
  • 所在地 東京都台東区上野公園7-7。JR上野駅公園口から歩いてすぐの上野公園内にあります。
  • 展示状況 同館の所蔵作品検索では「展示中」と表示されており、常設展で公開されています。
  • 観覧料 常設展は一般500円、大学生250円、高校生以下は無料です。開館時間は9時30分から17時30分まで、金曜・土曜は20時まで。休館日は月曜日(祝日の場合は開館)と年末年始です。

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 引き伸ばされた人体 解剖学的な正しさよりも、天へ向かう動きが優先されています。ゆらめく炎にたとえられるこの身体表現こそ、エル・グレコの署名のようなものです。
  • 荒々しい筆致 輪郭はぼかされ、絵具の跡がそのまま残っている箇所もあります。近づいて見ると、仕上げの滑らかさよりも手の勢いが前に出ていることがわかります。
  • 超自然的な色彩 空も肌も、現実の光の色ではありません。この世のものではない光に照らされているかのような配色が、宗教画としての緊張感を高めています。

この絵が日本にある理由

この作品はもともとスペインのアルバ公家に伝わり、その後1926年にパリの画商ベルネーム=ジュヌの手に渡りました。以後、複数の所有者のあいだを移り、最終的にヴィルデンスタインの東京支店を経て、1974年に国立西洋美術館が購入しています。

国立西洋美術館は、返還された松方コレクションを核として1959年に開館しました。ただし松方コレクションは印象派を中心とする近代フランス絵画に厚く、古い時代の宗教画はほとんど含まれていません。開館後の同館は、手薄だった時代を埋めるための購入を重ねてきました。このエル・グレコもその流れのなかで日本にやってきた一点です。

結果として上野では、中世末期から20世紀までの西洋絵画の流れを、一館のなかでたどれるようになりました。松方が集めた作品と、美術館が自ら選び取った作品。その両方が同じ建物に並んでいることを意識すると、常設展の見え方も変わってきます。

まとめ

《十字架のキリスト》は、クレタ島に生まれてスペインで生涯を終えた画家が、最後にたどりついた表現を伝える作品です。引き伸ばされた身体、荒い筆、現実離れした色。この三点を頭に入れて対面すると、400年前の絵が驚くほど新しく見えてきます。上野の常設展で、その激しさをぜひ確かめてみてください。