エル・グレコ《受胎告知》:戦前から日本にある唯一のエル・グレコ油彩

エル・グレコ《受胎告知》:戦前から日本にある唯一のエル・グレコ油彩

名画
作者
エル・グレコ
制作年
1590-1603年頃
所蔵
大原美術館
所在地
岡山県倉敷市

1922年にパリで児島虎次郎が見出し、翌年から倉敷で公開されてきたエル・グレコの《受胎告知》。戦前から日本にあった唯一のエル・グレコ油彩です。2025年に約60年ぶりの修復を終え、渦巻く闇と鋭い光がよみがえりました。大原美術館本館第3室で公開されています。

大原美術館の《受胎告知》は、戦前から日本にあった唯一のエル・グレコの油彩画です。1922年にパリで見出され、翌1923年に倉敷で公開されて以来、100年以上にわたって日本の人々に見られてきました。2025年には約60年ぶりとなる本格的な修復を終え、鮮やかな色彩がよみがえっています。

《受胎告知》とは

作者のエル・グレコは、クレタ島に生まれ、イタリアで学んだのちスペインのトレドで活躍した画家です。本名をドメニコス・テオトコプーロスといい、「エル・グレコ」は「ギリシャ人」を意味する通称にあたります。大原美術館の《受胎告知》は1590年頃から1603年にかけて描かれた油彩・カンヴァスの作品で、大きさは109.1×80.2センチメートルの縦長の画面です。

主題は、大天使ガブリエルが聖母マリアのもとを訪れ、神の子を身ごもったことを告げる場面です。キリスト教絵画で最もよく描かれてきた主題のひとつで、エル・グレコ自身も生涯にわたって繰り返し取り上げました。本作には、渦を巻く闇と鋭い光、そして細く引き伸ばされた人物像という晩年の作風がはっきりと表れています。静かな告知の場面が、天と地を貫く出来事として描き出されています。

エル・グレコの油彩画は日本にごくわずかしか伝わっておらず、この《受胎告知》は戦前から日本にあった唯一のエル・グレコの油彩画とされています。1923年に倉敷で公開されて以降、日本人が実物のエル・グレコに出会える数少ない機会をつくり続けてきた作品です。

どこで見られる?

  • 所蔵先:大原美術館(本館)
  • 所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15(倉敷美観地区内、JR倉敷駅から徒歩約15分)
  • 展示状況:2026年4月25日から2027年3月28日まで、本館第3室の展示「エル・グレコ《受胎告知》 よみがえる色彩の輝き」として公開されています
  • 観覧料:一般2,000円、小・中・高校生および18歳未満500円、未就学児無料。3月から11月は9時から17時(入館は16時30分まで)、12月から2月は9時から15時。月曜休館(祝日の場合などは変更あり)

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 光と闇のドラマ:画面を斜めに走る光と、渦を巻くような暗がりの対比が、告知の一瞬を劇的な出来事に変えています。
  • 降りてくる聖霊の鳩:ガブリエルとマリアのあいだの空間には、光をまとった聖霊の鳩が描かれ、視線を画面の中心へと導きます。
  • 修復でよみがえった色彩:2025年、スペイン・プラド美術館の修復家エバ・マリア・マルティネス・モラレス氏を中心に修復が行われ、長年の汚れや後世の加筆が取り除かれました。記録が残る前回の修復は1959年で、約60年ぶりの本格的な処置となります。クラレ財団の助成による事業です。

この絵が日本にある理由

この作品を見つけたのは、倉敷出身の洋画家・児島虎次郎です。児島は実業家の大原孫三郎の支援で三度ヨーロッパへ渡り、自分の目で選んだ西洋絵画を日本へ送り続けました。1922年、三度目の渡欧中にパリの画廊ベルネーム・ジューヌでこの《受胎告知》に出会い、二度と得られない機会だと大原に訴えて購入にこぎつけます。

翌1923年、作品は倉敷で公開され、大きな反響を呼びました。児島が1929年に世を去ると、大原は友人の遺志を継ぐかたちで、翌1930年11月に大原美術館を開館します。日本で最初の、西洋美術を中心とする私立美術館でした。ギリシャ神殿を思わせるイオニア式の列柱をもつ本館は、いまも美観地区の象徴になっています。《受胎告知》はその中心にある一点として、100年近く同じ町で公開され続けています。

大原美術館では2026年2月9日から4月24日まで、本館の空調や電気設備を改める大規模な改修工事のため長期休館していました。4月25日の再開館とあわせて、修復を終えた《受胎告知》の本格的な再展示も始まっています。

まとめ

エル・グレコ《受胎告知》は、一人の画家の情熱と一人の実業家の決断によって日本にもたらされた作品です。修復を経て色彩を取り戻したいま、倉敷の本館でその輝きを確かめることができます。訪れる前に、公式サイトで展示室と開館日を確認しておくと安心です。