狩野永徳:戦国時代の天下人につかえ、金箔のキャンバスに巨木と巨獣を描いた巨木大画の覇者

狩野永徳:戦国時代の天下人につかえ、金箔のキャンバスに巨木と巨獣を描いた巨木大画の覇者

画家

織田信長や豊臣秀吉の桃山城を彩った狩野永徳。天下人の絶対的権力を示すため、数メートルにおよぶ金箔屏風に、荒々しい極太の筆のタッチで巨大な松やライオンを描く「大画(たいが)」様式を確立した男の一生。

狩野永徳(1543-1590)は、安土桃山時代の京都で活躍した画家です。織田信長と豊臣秀吉という二人の天下人に仕え、金箔を背景に巨大な樹木や獣を描く「大画(たいが)」の様式を確立しました。

生涯:狩野派の嫡男として、天下人の城を飾る

1543年、京都に狩野派の当主・狩野松栄(しょうえい)の長男として生まれました。祖父は狩野派の様式を大成した狩野元信で、永徳は幼い頃から元信のもとで英才教育を受けたと伝えられます。20代前半で、父とともに大徳寺の塔頭・聚光院(じゅこういん)の障壁画を手がけ、早くも一門の中心的存在となりました。

1576年から築かれた織田信長の安土城では、天主から御殿にいたる障壁画の制作を統括します。信長の死後は豊臣秀吉に仕え、大坂城、聚楽第(じゅらくだい)、御所などの大画面を次々と任されました。ただしこれらの建物はいずれも失われ、永徳の障壁画も現存していません。

相次ぐ大仕事に追われた永徳は、1590年、東福寺法堂(はっとう)の天井画を制作している最中に病に倒れ、同年9月14日(新暦10月12日)に没しました。数えで48歳でした。未完の下絵は弟子の狩野山楽に託され、制作が引き継がれています。

画風の特徴

永徳の絵は、まず画面の大きさと筆の太さで人を圧倒します。金箔を全面に押した背景に、墨で一気に引いた極太の輪郭線で松や檜(ひのき)の幹を描き、その幹が画面の枠を突き破るように伸びていきます。細部を克明に描き込むのではなく、大きな形の勢いで見せる描き方で、これを同時代の記録は「大画」と呼びました。一方で永徳には、細い筆で人物や街並みを緻密に描く「細画(さいが)」の腕もあり、《洛中洛外図屏風》はその代表です。金地は、蝋燭しか光源のない城内の広間で反射し、暗い空間を明るく見せる実用的な効果も持っていました。

代表作

  • 唐獅子図屏風(国宝・皇居三の丸尚蔵館):二頭の巨大な唐獅子が悠然と歩む六曲一隻。極太の輪郭線と筋肉の量感が、権力の威厳をそのまま形にしています。
  • 檜図屏風(国宝・東京国立博物館):金地にのたうつように枝を広げる檜の巨木。もとは八曲一隻の襖絵であったと考えられています。
  • 洛中洛外図屏風(上杉本)(国宝・米沢市上杉博物館):戦国期の京都の市街と、そこに生きる二千数百人の人々を金雲の間に描いた作品。信長が上杉謙信に贈ったと伝えられます。
  • 聚光院障壁画(国宝・京都、大徳寺聚光院):《花鳥図》などの襖絵。父・松栄との分担で制作された、20代の永徳を知る貴重な作例です。

同時代の画家との関係

永徳は狩野派という工房組織の総帥として、多数の弟子を率いて仕事を進めました。弟子の狩野山楽は永徳の様式を継いで京狩野の祖となり、子の光信・孝信の系統は江戸幕府の御用絵師として続いていきます。最大の競合は、能登から京へ出て台頭した長谷川等伯でした。等伯が仙洞御所の障壁画の仕事に近づいた際、狩野派側がこれを阻んだとする記録が残っており、両者が激しく競い合ったことがうかがえます。等伯の《松林図屏風》に代表される水墨の詩情は、永徳の豪壮な金碧画とはまさに対極にありました。

日本で見られるか

永徳の作品はすべて国内にあります。《檜図屏風》は東京国立博物館(東京・上野)、《唐獅子図屏風》は皇居東御苑にある皇居三の丸尚蔵館、《洛中洛外図屏風(上杉本)》は米沢市上杉博物館(山形)が所蔵しています。京都の大徳寺聚光院には障壁画がありますが、本体は京都国立博物館に寄託されており、寺では通常、精巧な複製が公開されています。いずれも常時展示ではないため、公開時期を確認してから訪れるのが確実です。

見どころ

実物の前では、まず線の太さと速さを見てください。獅子の輪郭も檜の幹も、迷いなく一息で引かれており、筆が止まった跡がほとんどありません。次に金地との関係です。金は光を返す面であって、奥行きのある空間ではありません。そのため描かれた獅子や樹木は前面にせり出して見えます。そして《洛中洛外図屏風》では逆に、顔を近づけて群衆の一人ひとりを追ってください。祭りの行列、喧嘩、物売り、犬。豪快さと緻密さが同じ画家の中に同居していることが実感できます。

代表作ギャラリー

唐獅子図屏風
唐獅子図屏風16世紀後半宮内庁三の丸尚蔵館
洛中洛外図屏風(上杉本)
洛中洛外図屏風(上杉本)1565年頃米沢市上杉博物館
檜図屏風
檜図屏風1590年頃東京国立博物館
上杉本洛中洛外図屏風
上杉本洛中洛外図屏風1600年米沢市上杉博物館
梅花禽鳥図(四季花鳥図襖より)
梅花禽鳥図(四季花鳥図襖より)1566年聚光院
Women at Chinese Court
Women at Chinese Court1562年メトロポリタン美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)