デイヴィッド・ホックニー:プールの水しぶきからiPadまで、「見ること」を楽しみ続ける現代最高峰の画家
カリフォルニアのプールを描いた鮮やかな絵画で一世を風靡し、80代ではiPadで春の風景を描くデイヴィッド・ホックニー。「絵画は死なない」を体現し続けた、現代で最も重要な画家の一人。
デイヴィッド・ホックニー(1937-2026)は、イギリスの画家です。20世紀後半から21世紀にかけて最も重要な作家の一人と評されました。1960年代にカリフォルニアの陽光とプールを描いた鮮やかな絵画で名声を確立し、その後もポラロイド写真を組み合わせた「ジョイナー」、ファックスやコピー機を使った作品、そして70代から始めたiPadドローイングまで、つねに新しい道具と視点で「見ることの楽しさ」を探求し続けました。
生涯
1937年、イングランド北部の工業都市ブラッドフォードに生まれました。地元のブラッドフォード美術学校を経て、1959年にロンドンの王立美術大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)へ進みます。在学中から注目を集め、ポップ・アートの新世代として扱われました。
1964年にロサンゼルスへ移り住むと、プール、シャワー、ヤシの木といったカリフォルニアの光あふれる生活を描いて一躍スターとなります。同性の恋人や友人を率直に描いた作品は、同性愛がまだ違法とされていた英国の状況に対する静かな表明でもありました。
1970年代以降は、単一の視点に立つ遠近法への疑問からピカソのキュビスムを再研究し、無数の写真を貼り合わせて複数の視点を一枚に収める「ジョイナー」を考案します。2000年代には故郷ヨークシャーへ戻り、四季の風景を巨大なカンヴァスで描きました。2010年ごろからはiPadを本格的な画材として使い始めます。2018年には《芸術家の肖像(プールと二人の人物)》が、存命作家の作品として当時の史上最高額で落札されました。2019年からノルマンディーに住んで制作し、2023年にロンドンへ戻り、2026年6月11日、ロンドンの自宅で88歳で亡くなりました。
画風の特徴
ホックニーの絵は、影が薄く、色が明るく、輪郭がはっきりしています。カリフォルニア時代にはアクリル絵具を平らに塗り、プールの水面をゆらめく線の模様として記号化しました。彼の一貫した関心は「人間の目はカメラとは違う」という一点にあります。人は視線を動かし、時間をかけて世界を見る。だから一点透視の絵は嘘だ——この考えが、ジョイナー、複数の消失点を持つ風景画、そして逆遠近法の実験へとつながりました。使う道具はつねに変わりましたが、目の働きへの好奇心は変わりません。
代表作
- ア・ビガー・スプラッシュ(1967年、ロンドン、テート):飛び込み台と、人の姿なき水しぶきだけを描いたプール絵画の代表作。静止した午後の時間に、一瞬の水音が刻まれています。
- クラーク夫妻とパーシー(1970-71年、テート):ファッションデザイナー夫妻を描いた等身大の二重肖像。愛猫パーシーの背中が、二人の関係の緊張を静かに語ります。
- 芸術家の肖像(プールと二人の人物)(1972年):プールを泳ぐ人物と、それを見つめる青年を描いた大作。物語性の頂点であり、2018年に9000万ドルを超える価格で落札されました。
- 春の到来(2011年-、iPad絵画連作):ヨークシャーやノルマンディーの春をiPadで毎日描き続けた連作。ノルマンディーの四季を描いた作品は全長90メートルに及びます。
- スプリンクラー(1967年、東京都現代美術館):芝生に水を撒くスプリンクラーを描いた、カリフォルニア時代を代表する一点です。
同時代の画家との関係
王立美術大学ではR・B・キタイと親しく、その助言が主題選びに影響を与えました。生涯にわたって研究し続けたのはピカソで、その死後には追悼の版画を制作しています。フランシス・ベーコンとは同じ英国の具象画家として比較されましたが、ベーコンの暗い肉体観とホックニーの明るい快楽主義は対照的です。フェルメールやアングルの制作に光学装置が使われたと論じた著書『秘密の知識』は、美術史家との論争を巻き起こしました。
日本で見られるか
東京都現代美術館が《スプリンクラー》をはじめとする作品を所蔵しています。同館では2023年に27年ぶりとなる大規模個展が開かれ、初期作から全長90メートルのiPad新作まで100点以上が紹介されました。版画の点数が多い作家でもあるため、国内の美術館の版画コレクションで出会える機会もあります。
見どころ
プール絵画の前では、水の描き方に注目してください。青い面の上に置かれた白い曲線は、写実的な描写というより、水を表すために発明された記号です。ホックニーは「水は形を持たない。だから描き方を決めなければならない」と考えました。ジョイナーや後期の風景画では、視点を一点に固定せず、視線を絵の上で泳がせてみてください。手前と奥、右と左で遠近が食い違っていることに気づきます。それは失敗ではなく、動きながら見る人間の目を再現した結果です。iPad作品では、レイヤーの重なりや指の速度が残る線を探すと、デジタルの筆致という新しい味わいが見えてきます。

