ロイ・リキテンスタイン:漫画のひとコマを美術館へ、ベンデイドットのポップアート巨匠

ロイ・リキテンスタイン:漫画のひとコマを美術館へ、ベンデイドットのポップアート巨匠

画家

アメコミのひとコマを巨大なカンヴァスに拡大し、印刷の網点(ベンデイドット)ごと手描きで再現したロイ・リキテンスタイン。ウォーホルと並ぶポップアートの巨匠の、クールで知的な芸術の全貌。

ロイ・リキテンスタイン(1923-1997)は、アンディ・ウォーホルと並んでアメリカのポップアートを代表する画家です。漫画のひとコマを巨大な画面に拡大し、印刷の網点まで手で描き写す手法で知られます。

生涯:抽象表現主義から漫画絵画へ

1923年10月27日、ニューヨーク市マンハッタンに生まれました。オハイオ州立大学で美術を学び、第二次世界大戦への従軍を挟んで学業を修めたのち、同大学や州立大学で教鞭を執ります。1950年代は抽象表現主義の影響下で制作しており、いわば遅い出発でした。

転機は1961年です。ニュージャージーのラトガース大学で教えていたこの年、リキテンスタインはミッキーマウスとドナルドダックを描いた《ルック・ミッキー》を制作し、以後、恋愛漫画や戦争漫画のコマを主題とする作品へ本格的に移行しました。1962年、ニューヨークのレオ・キャステリ画廊で開いた個展は開幕前にほぼ完売し、一躍注目を集めます。当初は「漫画をそのまま写しただけだ」という激しい批判にさらされましたが、姿勢を変えることはありませんでした。

1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレのアメリカ館に出品、1968年のドクメンタ4にも参加し、国際的な評価を確立します。1960年代後半以降は、モネの大聖堂やピカソ、マティスといった美術史上の名画を自身の網点様式に「翻訳」する連作へ展開し、彫刻や壁画も手がけました。1997年9月29日、ニューヨークで肺炎のため死去。73歳でした。

画風の特徴

最大の特徴は「ベンデイドット」と呼ばれる網点の使用です。これは安価な印刷物で中間色を出すための技法ですが、リキテンスタインはこれを機械に任せず、穴を開けた金属板やステンシルを当てて、絵具を一点ずつ手で刷り込みました。色は赤・黄・青の原色と黒・白に絞られ、輪郭は太い黒線で明快に区切られます。原作の漫画をそのまま拡大したのではなく、構図を切り詰め、線の太さを整え、台詞を書き換えるなど、丹念な再構成が加えられている点が重要です。大量生産のイメージを、極度に手間のかかる手仕事で描き直すという逆説が、作品の中核にあります。

代表作

  • ルック・ミッキー(1961年・ナショナル・ギャラリー、ワシントンD.C.):漫画を主題とした最初期の作品で、リキテンスタインの出発点とされます。
  • ワーム!(Whaam!)(1963年・テート、ロンドン):戦闘機がミサイルで敵機を撃墜する場面を、幅4メートルを超える二連画に拡大した代表作です。
  • 溺れる少女(1963年・ニューヨーク近代美術館):波にのまれながら助けを拒む少女。メロドラマの誇張を切り取ったポップアートの象徴的な一点です。
  • ヘアリボンの少女(1965年・東京都現代美術館):金髪の少女の顔を大きく描いた作品。日本の公立美術館が所蔵する代表作です。
  • 大聖堂連作(1969年):モネのルーアン大聖堂連作を網点だけで置き換え、光の移ろいを印刷の記号に翻訳した作品群です。

同時代の画家との関係

同じくレオ・キャステリ画廊に所属したアンディ・ウォーホルとは、ポップアートの二大巨匠として並び称されました。両者はほぼ同時期に漫画を主題にしており、ウォーホルは重複を避けて漫画から離れたと言われます。ほかにクレス・オルデンバーグ、ジェームズ・ローゼンクイスト、トム・ウェッセルマンらが同じ潮流にあり、先行世代のジャスパー・ジョーンズやロバート・ラウシェンバーグが日常の事物を扱った仕事が、この世代の前提となりました。教職時代の同僚アラン・カプローとの交流も、日常の素材へ関心を向ける契機になったとされます。

日本で見られるか

東京都現代美術館(東京・江東区)が《ヘアリボンの少女》(1965年)を所蔵しており、コレクション展でしばしば公開される、同館を代表する作品の一つです。購入時に価格をめぐる議論を呼んだことでも知られます。ほかに大原美術館(岡山・倉敷)も作品を所蔵しています。まとまった規模で見る機会は限られるため、コレクション展の展示情報を確認して訪れるのが確実です。

見どころ

実物の前では、まず画面に近づいて網点を見てください。印刷ではなく絵具であることが、点の縁のわずかな乱れやかすれからわかります。次に離れて、その点が肌色や中間色として目に溶けていく距離を探してみてください。近くでは記号、遠くでは像という切り替わりが、この作品の仕掛けです。三つめは黒い輪郭線の太さです。一定に見えて、実は場所によって微妙に太さが変えられており、それが画面に緊張を与えています。そして台詞のある作品では、吹き出しの位置と文字組みにも注目を。文字の配置まで含めて、絵として設計されています。

代表作ギャラリー

Whaam!
Whaam!1963年アメリカ合衆国
Drowning Girl
Drowning Girl1963年ニューヨーク近代美術館
Brushstrokes
Brushstrokes1996年ポートランド美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)