アウグスト・マッケ:色彩の楽園を描いて27歳で散った、青騎士の最年少画家

アウグスト・マッケ:色彩の楽園を描いて27歳で散った、青騎士の最年少画家

画家

公園を散歩する人々、帽子店のウィンドウ、チュニジアの光。マッケの絵には不安の時代の中の「日常の幸福」が輝きます。第一次大戦の最初期に戦死した、青騎士の希望の画家です。

はじめに:表現主義の中の「幸福」担当

アウグスト・マッケ(1887-1914)は、ドイツ表現主義の画家です。カンディンスキーやフランツ・マルクとともに「青騎士」に参加しながら、精神性や悲劇性へ向かう仲間とは対照的に、都市の何気ない日常——散歩する人々、ショーウィンドウ、公園の木漏れ日——を澄んだ色彩で描き続けました。

生涯:27年の、密度の高い画業

マッケは1887年、ドイツ西部ヴェストファーレン地方のメシェーデに生まれ、少年時代をボンで過ごしました。デュッセルドルフ美術アカデミーに学び、20歳前後で三度パリを訪れて印象派やフォーヴィスムの色彩に触れます。ベルリンでは短期間ロヴィス・コリントの指導も受けました。

1909年、エリーザベト・ゲルハルトと結婚。妻の伯父が美術収集家だったことも幸いし、生活の心配なく制作に打ち込める環境を得ます。1910年にフランツ・マルクと出会って生涯の親友となり、1911年にはカンディンスキーとマルクが立ち上げた「青騎士」に最年少格で加わりました。

大きな転機は1912年、マルクとパリを訪れてロベール・ドローネーのアトリエを見たことです。色そのものがリズムを作る「オルフィスム」に刺激を受け、以後の画面は透明な色面の重なりへ向かいます。

1914年4月、パウル・クレーらとチュニジア旅行へ。その数か月後に第一次世界大戦が勃発し、召集されたマッケは同年9月26日、シャンパーニュ地方の戦線で27歳の生涯を終えます。

画風の特徴:透明な色面と、顔のない人物

マッケの絵は、表現主義の枠にありながら叫びません。輪郭線は柔らかく、形は単純化されますが歪みません。色は明るく澄み、赤・黄・青・緑の色面が半透明のガラスのように重なり合います。ドローネーから学んだ色面の重層が、独特の光を与えています。

もう一つの特徴が人物の扱いです。散歩する男女、ウィンドウを眺める女性——彼らは後ろ姿かシルエットで描かれ、顔がありません。個人の心理を消すことで、そこにあるのは「誰でもない私たちの日常」になります。都市の消費生活を批判ではなく祝福として描いた点は、当時のドイツ美術では稀な視線でした。晩年のチュニジア水彩では、対象がほとんど色の四角形にまで還元されています。

代表作

  • 帽子店の前で(1913-14年):ウィンドウの帽子を眺める後ろ姿の女性。ただそれだけの光景が、単純化された色面によって永遠の静けさをまといます。
  • 動物園にて(1912年):檻の前に集う人々と動物を、明るい色面で構成した代表作。
  • チュニジア水彩連作(1914年):旅の2週間で描かれた透明な水彩は、彼の到達点であり遺言のような作品群です。

同時代の画家との関係

最も深い絆で結ばれたのはフランツ・マルクです。二人は手紙を交わし続け、共同で壁画も制作しました。動物に魂を見たマルクと、街角に幸福を見たマッケ——青騎士の両翼として並べると、二人の若さと未完がいっそう胸に迫ります(マルクも1916年、ヴェルダンで戦死しました)。カンディンスキーの抽象志向にはむしろ距離を置いていました。パウル・クレーとはチュニジア旅行をともにし、この旅でクレーは「色彩が私を捉えた」という言葉を日記に記しています。そして色彩の面での師にあたるのがロベール・ドローネーでした。

日本で見られるか

国内に主要作品は少なく、常設でマッケを見られる日本の美術館は確認できません。作品の多くはドイツにあり、ボンのアウグスト・マッケ・ハウス(画家が最後に暮らした家)、ミュンヘンのレンバッハハウス美術館、ミュンスター州立美術館などが主要な収蔵先です。日本では「青騎士」関連の大型企画展が数年から十数年に一度来日しており、その機会に接するのが現実的です。

見どころ

  • 後ろ姿に注目:マッケの人物はよく後ろ姿です。顔がないことで、誰でもない「私たちの日常」になっています。
  • 色面の重なりを探す:木の緑と空の青が重なる部分に、第三の色が生まれています。ドローネーから学んだ透明さの正体です。
  • 油彩と水彩を並べる:チュニジアの水彩は油彩より抽象に近づいています。
  • マルクと対で:同じ青騎士でも、色の使い方も主題もまるで違います。並べて見ると、それぞれの個性がくっきりします。

まとめ

マッケは、破局前夜のヨーロッパで「普通の幸せ」を描き残した画家です。その明るさは、歴史を知る目には祈りのように見えます。

代表作ギャラリー

帽子店の前で
帽子店の前で1913年頃
緑のジャケットの婦人
緑のジャケットの婦人1913年ルートヴィヒ美術館
カイルアン(チュニジア水彩)
カイルアン(チュニジア水彩)1914年
Porträt mit Äpfeln: Frau des Künstlers
Porträt mit Äpfeln: Frau des Künstlers1909年レンバッハハウス美術館
Woman in Green Jacket
Woman in Green Jacket1913年ルートヴィヒ美術館
Mode: Woman with Parasol in front of Milliner's Shop
Mode: Woman with Parasol in front of Milliner's Shop1914年フォルクヴァンク美術館
Large Bright Showcase
Large Bright Showcase1912年シュプレンゲル美術館
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label1913年レンバッハハウス美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)