ウォルター・デ・マリア:大地そのものを作品にした人

画家

砂漠に400本の避雷針を立て、ニューヨークの一室を土で埋める。ウォルター・デ・マリアは、美術館の額縁から出て大地そのものを扱った作家です。直島の地中美術館とベネッセハウスには、日本で最も体験しやすい代表作が二点、常設されています。

ウォルター・デ・マリア(1935-2013)は、アメリカのランドアート・ミニマルアートの作家です。絵画や彫刻を部屋に置くのではなく、砂漠や地下空間そのものを作品の一部として扱いました。

経歴

1935年、カリフォルニア州オルバニーに生まれました。カリフォルニア大学バークレー校で歴史を学んだのち美術に移り、1960年にニューヨークへ出ます。ミニマルアート、コンセプチュアルアートの芽が同時に育っていた時期で、彼はそのどれにも属しながら、どれとも少し違う位置にいました。

音楽との縁も深く、若い頃はドラムを叩き、のちにヴェルヴェット・アンダーグラウンドへつながるバンドで演奏していたことが知られています。等間隔で反復する構成や、静けさのなかで一定のリズムを刻ませる空間の作り方には、その感覚が生きているようにも見えます。

作風と手法

デ・マリアの作品は、数と素材が徹底して厳密です。何本、何メートル、何個という単位が最初に決まり、その通りに実現されます。しかし出来上がったものを前にすると、数字の話ではなくなります。広大な空、地面の重さ、光の移り変わりといった、はかりようのないものが立ち上がってくるからです。

作品は写真でも図面でも代替できず、その場に立つことを要求します。「見に行かなければ存在しない作品」を、彼はほとんど原理として貫きました。

代表作

  • ライトニング・フィールド(1977年)ー ニューメキシコ州の荒野に、ステンレスの棒400本を格子状に立てた作品。ディア芸術財団が管理し、予約した宿泊者だけが体験できます。
  • ニューヨーク・アース・ルーム(1977年)ー ニューヨークのアパートの一室を土で満たした作品。半世紀近く公開が続いています。
  • ヴァーティカル・アース・キロメーター(1977年)ー ドイツ・カッセルのフリードリヒ広場。真鍮の棒を1キロメートル地中に埋め、地表には直径5センチの断面だけが見えます。ドクメンタ6で発表されました。
  • タイム/タイムレス/ノー・タイム(2004年)ー 香川県直島の地中美術館。階段の上に巨大な花崗岩の球体を据え、金箔の木彫を壁に並べた空間です。
  • 見えて/見えず 知って/知れず(2000年)ー 直島のベネッセハウス ミュージアム、海に面した屋外の段状空間に常設されています。

国際的な評価

1960年代末から、ロバート・スミッソンやマイケル・ハイザーらとともにランドアートの中心人物と見なされてきました。ドクメンタには複数回参加し、ディア芸術財団の支援を受けた恒久作品は、いずれも現代美術の巡礼地のように扱われています。2013年、ロサンゼルスで死去しました。

日本で見られる場所

日本には二点の恒久作品があり、どちらも香川県直島にあります。ひとつは安藤忠雄設計の地中美術館にある《タイム/タイムレス/ノー・タイム》。天井から差す自然光だけで照らされ、時間帯と天気によって球体の見え方がまったく変わります。もうひとつはベネッセハウス ミュージアムの屋外、瀬戸内海を望む階段状の空間に置かれた《見えて/見えず 知って/知れず》です。

地中美術館ばかりが知られていますが、後者は海と空を背景にした屋外作品で、こちらのほうがデ・マリアの「大地も作品の一部」という考え方を直接に感じられます。直島を訪れたら、両方を続けて見るのがおすすめです。

見どころ

地中美術館の球体は、磨かれた花崗岩です。表面には天井の光と、階段を上がってくる自分の姿がぼんやり映り込みます。作品の前で足を止め、朝と昼と夕方でどう違うかを想像してみてください。数字で厳密に決められた形が、光という予測できないものと組み合わされている。その落差こそが、この作家の面白さです。