横尾忠則:ポスターの頂点から画家へ、Y字路の夜
1960年代のアングラ演劇ポスターで時代の顔となり、1972年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催。1981年の「画家宣言」以降は、故郷の三叉路を描き続ける《Y字路》シリーズなどで絵画の道を歩みます。神戸と豊島には横尾作品だけの美術館があります。
横尾忠則(1936-)は、グラフィックデザイナーとして世界的な名声を得たのち、画家に転身した美術家です。原色がぶつかり合うポスター、夢と現実が入り混じる絵画、そして故郷の三叉路を描き続ける《Y字路》シリーズ。2020年代に入っても、精力的に新作を発表し続けています。
経歴
1936年、兵庫県西脇市に生まれました。神戸新聞社で図案の仕事を経験したのち、1960年に上京して日本デザインセンターに入社します。1965年には宇野亞喜良・和田誠らとグラフィックデザイン展「ペルソナ」に参加し、一躍注目を集めました。
1960年代後半、唐十郎の状況劇場や寺山修司の天井桟敷のポスターを手がけ、アングラ演劇の視覚的な象徴となります。1967年に毎日産業デザイン賞、1969年に第6回パリ青年ビエンナーレ版画部門グランプリ、1974年にワルシャワ国際ポスター・ビエンナーレ金賞を受賞しました。
転機は1980年。ニューヨーク近代美術館でピカソの大回顧展を見た衝撃から、翌1981年に「画家宣言」を行い、デザインの第一線から絵画へと軸足を移しました。2001年に紫綬褒章、2011年に旭日小綬章、2015年に高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。2023年には日本芸術院会員に選ばれ、文化功労者にも選出されています。
作風と手法
デザイナー時代の横尾は、日の丸、旭光、歌舞伎、蒸気機関車、洋画の切り抜きといった雑多なイメージを一枚に詰め込み、蛍光色に近い原色で塗り分けました。「ポップアートの日本版」とも「日本のウォーホル」とも呼ばれた由縁です。
画家になってからは、写実と幻想、聖と俗、生と死が同じ画面に同居する絵画を描き続けています。技法にこだわらず、筆致をわざと粗くしたり、複数の様式を1枚の中で切り替えたりする自由さが特徴です。2000年に故郷の西脇で夜の三叉路をストロボ撮影したことをきっかけに始まった《Y字路》シリーズは、今では約150点に及ぶライフワークになっています。
主な作品
- ポスター《TADANORI YOKOO》(1965年):首を吊った自身の姿と「29歳で頂点に達し、僕は死んだ」という文言を掲げた自主制作ポスター。ニューヨーク近代美術館が収蔵しています。
- 状況劇場《腰巻お仙 忘却篇》ポスター(1966年):唐十郎の劇団のために制作したシルクスクリーン。1960年代を代表するポスターとして国内外の美術館に収蔵されています。
- 《暗夜光路 赤い闇から》(2001年):東京都現代美術館が所蔵する、Y字路シリーズ初期の代表作です。
- 《Y字路》シリーズ(2000年-):西脇の椿坂に始まり、各地の三叉路を描いてきた連作です。
国際的な評価
1972年、ニューヨーク近代美術館で個展「Graphics by Tadanori Yokoo」が開かれました。同館が存命のグラフィックデザイナーの個展を開いたのはこれが初めてです。以後、海外の主要美術館が横尾のポスターや絵画を収蔵しており、2015年には美術分野のノーベル賞とも呼ばれる高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)を受賞しました。
国内では2021年、東京都現代美術館で600点以上の作品を集めた「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」が開催され、60年以上の活動の全貌が示されました。
日本で見られる場所
横尾作品を常設的に見られる施設は2つあります。
1つ目は神戸市灘区の横尾忠則現代美術館です。横尾自身が兵庫県に作品と資料を寄贈・寄託したことをきっかけに、旧兵庫県立近代美術館の西館(村野藤吾設計)を改修し、2012年11月に開館しました。コレクションを軸にしたテーマ展を年に数回入れ替えて開催しており、いつ訪れても横尾作品を見られます。2021年にはコレクションギャラリーも開設されました。
2つ目は香川県・豊島の豊島横尾館です。港近くの古い民家を建築家・永山祐子が改修し、2013年に開館しました。母屋・倉・納屋に平面作品11点を展示し、庭と円筒形の塔にはインスタレーションが広がります。赤いガラス越しに見る庭がモノクロームに変わる仕掛けは、館のテーマである「生と死」をそのまま体感させます。ベネッセアートサイト直島の一部です。
このほか、東京都現代美術館など国内の主要館がポスターや絵画を所蔵しており、コレクション展で出会える機会があります。
見どころ
横尾忠則現代美術館では、展示替えのたびに違うテーマで作品が並びます。1枚の絵の中で写実と落書きのような筆致が同居しているのを、ぜひ近くで確かめてください。豊島横尾館では、赤いガラスの内側から庭を眺めた瞬間の色の変化が最大の見せ場です。デザイナー時代のポスターしか知らない人ほど、画家・横尾の振れ幅の大きさに驚くはずです。

