蜷川実花:極彩色の花と金魚、そして没入型の空間へ
鮮烈な色で花や金魚を撮り、木村伊兵衛写真賞を受けた写真家は、映画監督としても『さくらん』『ヘルタースケルター』を手がけました。近年はクリエイティブチームEiMと組み、TOKYO NODEで25万人を集めた没入型の展覧会を皮切りに、各地で展示を展開しています。
蜷川実花(1972-)は、写真家・映画監督です。飽和するほど鮮やかな色で花や金魚、女性たちを撮る写真で知られ、2010年代以降は映像インスタレーションによる大規模な空間表現へと活動を広げています。
経歴
1972年、演出家・蜷川幸雄の長女として東京に生まれました。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科を卒業。在学中から作品を発表し、第7回写真3.3m²展(ひとつぼ展)グランプリ、第13回キヤノン写真新世紀優秀賞などを受けました。
2001年、第26回木村伊兵衛写真賞を受賞します。20代での受賞は、若い写真家の登場を強く印象づけました。2007年に映画『さくらん』で長編監督デビュー。2012年の『ヘルタースケルター』、2019年の『Diner ダイナー』『人間失格 太宰治と3人の女たち』、2020年のNetflixドラマ『FOLLOWERS』と、映像作品も継続して手がけています。
2008年の「蜷川実花展 地上の花、天上の色」は全国の美術館を巡回し、延べ18万人を動員。写真集は120冊以上、個展は150回以上を数え、2010年にはニューヨークのRizzoli社から写真集を出版しました。
作風と手法
蜷川の写真を一目で分からせるのは、色の強さです。花、金魚、蝶、着物、ネオン。現実に存在するものを、彩度を極限まで引き上げた画面に閉じ込めます。華やかさの裏側にある儚さや死の気配も、この作家が一貫して追ってきた主題です。
近年、蜷川は自身を含むクリエイティブチームEiM(エイム)として活動するようになりました。データサイエンティストの宮田裕章、セットデザイナーのENZO、クリエイティブディレクターの桑名功、照明監督の上野甲子朗らが加わり、写真を映像と空間に拡張します。CGを使わず現実を撮った映像で、来場者が作品の中を歩く没入型の展示が現在の中心です。
主な作品
- 映画『さくらん』(2007年):安野モヨコの漫画を原作にした長編監督第1作。
- 映画『ヘルタースケルター』(2012年):岡崎京子の同名漫画を映画化した監督第2作。
- 「蜷川実花 瞬く光の庭」(東京都庭園美術館、2022年):コロナ禍の2021〜22年に各地で撮った植物の写真と映像で構成した個展。
- 「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」(TOKYO NODE、2023〜24年):EiMとして制作した11点の作品による、自身最大規模の展覧会。約25万人を動員しました。
- 「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」(京都市京セラ美術館、2025年):関西で最大規模の個展。
国際的な評価
2010年にRizzoli New Yorkから作品集が刊行されたことで、海外での認知が広がりました。国内外での個展は150回以上、グループ展は130回以上に及びます。美術館での個展としては、原美術館「うつくしい日々」(2017年)、熊本市現代美術館「虚構と現実の間に」(2018年)、東京都庭園美術館「瞬く光の庭」(2022年)、弘前れんが倉庫美術館「with EiM:儚くも煌めく境界」(2024年)と続き、写真家の枠を超えた現代美術家として評価されています。
日本で見られる場所
蜷川実花の作品を常設で見られる場所はなく、企画展の機会に限られます。神戸の水族館átoaでの「共鳴するアクアリウム」(2025年)や、沖縄・南城美術館での「光の中で影と踊る」(2024〜25年)も、いずれも会期のある展示でした。
直近では、埼玉県の川口市立美術館の開館記念特別展「蜷川実花展 はじまりの光」が2026年9月12日から11月29日まで開かれます。川口は蜷川が幼少期を過ごし、父・蜷川幸雄が生まれ育った土地です。その後は、岡山県北部で開かれる「森の芸術祭 晴れの国・岡山 2027」(2027年9月18日〜11月23日)に蜷川実花 with EiMの参加が発表されています。展覧会は各地の美術館や商業施設で続いているため、公式サイトの展覧会情報を確認するのが確実です。東京の小山登美夫ギャラリーでも作品を扱っています。
見どころ
写真展の場合は、まず一枚の色に驚いてから、被写体の裏にある影を探してください。散る直前の花、水槽の中の金魚、造花と本物の花の混在。華やかさと儚さが常に同じ画面にあります。EiMの没入型展示では、写真を「見る」のではなく映像の中を「歩く」体験になります。上映時間が長い作品も多いので、時間に余裕を持って訪れてください。