松山智一:新宿駅前で待ち合わせできる鏡の彫刻

画家

仏像とダマスク模様とストリートファッションが、一枚の絵の中で同居する。ニューヨークを拠点に活動する松山智一は、東洋と西洋、古典と現代を混ぜ合わせる画家です。JR新宿駅東口の鏡面の彫刻《花尾》は、誰でも無料で会える代表作。日本と米国を行き来した生い立ちが、作品の根っこにあります。

松山智一(1976-)は、ニューヨークを拠点に活動する現代美術家です。西洋の名画、日本の花鳥画、ストリートファッション。時代も文化も違うイメージを一枚の画面に集め、鮮やかな色で描きます。JR新宿駅東口の駅前広場に立つ鏡面の彫刻《花尾》の作者としても知られています。

経歴

1976年、岐阜県(現在の高山市)に生まれました。父親が聖書学を学ぶため、8歳から12歳までを家族でアメリカ・ロサンゼルス郊外で過ごしています。この経験が、のちの作品の土台になりました。

帰国後は上智大学経済学部で学び、2000年に卒業。2002年に渡米し、ニューヨークのプラット・インスティテュートでコミュニケーションデザインを学びました。当初はグラフィックデザインが専門でしたが、やがて絵画へ転向します。2007年に千葉のギャラリーで初個展、2009年にはニューヨークのギャラリーで初めての個展を開いてから、ブルックリンのスタジオを拠点に活動を続けています。

作風と手法

松山の絵には、「混ざり合うこと」そのものが描かれています。西洋美術史の名作から引用した人物のポーズ、日本や中国の古典的な花や鳥、そこに現代のスニーカーやブランドの柄が重なる。東洋と西洋、古代と現代、具象と抽象という両極が、一つの画面で衝突せずに同居しています。

色は大胆で、輪郭は緻密です。大きな画面はスタジオのスタッフとともに制作されます。遠くからは一枚のポスターのように、近づくと細部の情報の洪水として見えてきます。彫刻では鏡面仕上げのステンレスを多く使い、周囲の風景や見る人を作品に映り込ませます。どちらも「自分は何者か」という、二つの国で育った作家自身の問いから出発しています。

主な作品

  • 《花尾(Hanao-San)》(2020年):JR新宿駅東口駅前広場の彫刻。花束を持つ少年をモチーフに、仏像や中世のダマスク模様を取り込んだ抽象的な形です。台座を含めた高さは8メートル。
  • 《Glory Slowly》《Immortality Morality》(2021年):千葉JPFドームに置かれた高さ約4.5メートルの一対の彫刻。咲くヒマワリと枯れたヒマワリで、生と死の対を表しています。
  • 《Infinity Trinity》(2023年):名古屋・中日ビルの縦3.6メートル、横7.8メートルの半立体作品。名古屋の礎を築いた「三英傑」の騎馬像を、絵画とステンレスの彫刻で組み合わせています。
  • バワリー壁画(2019年、2023年):ニューヨークの有名な壁画スポットで2度にわたり制作した大壁画です。

国際的な評価

作品は米国のロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)やサンフランシスコ・アジア美術館、ウィーンのアルベルティーナ美術館、上海の龍美術館などに収蔵されています。2023年には上海の宝龍美術館(Powerlong Museum)で個展「Fictional Landscape」を開催。2024年には第60回ヴェネチア・ビエンナーレの会期に合わせ、アルセナーレに隣接する会場で個展「Mythologiques」を開きました。

日本の美術館での初めての個展は、2023年から2024年にかけて弘前れんが倉庫美術館で開かれた「松山智一展:雪月花のとき」です。2025年には東京の麻布台ヒルズ ギャラリーで東京初の大規模個展「FIRST LAST」が開かれ、約40点が並びました。

日本で見られる場所

松山の作品を常設で見られる美術館は、今のところありません。そのかわり、街なかに恒久設置された作品があり、無料で見ることができます。

代表格がJR新宿駅東口駅前広場の《花尾》です。2020年7月、ルミネとJR東日本が広場を改修したときに設置されました。鏡面仕上げのステンレスの像に、新宿の看板やビル、行き交う人が映り込みます。松山は彫刻だけでなく、ベンチや床の模様まで含めて広場全体をデザインしました。東口を出てすぐの場所にあります。

名古屋では、2024年に建て替えられた栄の中日ビル2階のオフィスエントランスに《Infinity Trinity》があります。見る角度によって三人の騎馬武者の姿が変わる、絵画と彫刻を組み合わせた作品です。千葉市の千葉JPFドームにも彫刻2点と幅約30メートルの壁画がありますが、こちらはイベント来場時に見る形になります。

作家の公式サイトによれば、横浜美術館や岐阜県立美術館なども作品を所蔵しています。コレクション展に出ることがあれば、見る機会です。

見どころ

《花尾》の前に立ったら、まず像の表面に映る自分と新宿の街を見てください。作品は鏡なので、見る時間と天気で毎回違う姿になります。次に、形の中に隠れた要素を探しましょう。花束、少年の体、仏像の衣のひだ、ダマスク模様。松山の作品はいつも、遠くから見ると一つの形で、近づくとたくさんの文化の断片になります。その「切り替わる瞬間」が、この作家のいちばんの面白さです。