『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』:西洋絵画の「見方」を教えてくれる、日本の美術鑑賞入門の古典
「なぜこの絵は名画なのか」を、構図・技法・時代背景から一点ずつ丁寧に読み解く高階秀爾の名著。1969年の初版以来読み継がれ、累計82万部を超えるロングセラーの美術鑑賞入門書。
はじめに:名画は「なんとなく素晴らしい」で終わらせない
美術館で名画の前に立っても「なんとなくすごい」で終わってしまう。そんな経験を持つ人に読んでほしいのが、『名画を見る眼』(高階秀爾 著)です。ファン・アイクからマネまで、西洋絵画史を彩る名画を1点ずつ取り上げ、「なぜこの絵が名画なのか」を丁寧に解き明かしていきます。
書誌:新書版とカラー版があります
本書の初版は1969年、岩波新書として刊行されました。本文190ページの薄い新書です。1971年には続編にあたる『続 名画を見る眼』(210ページ)が出ており、こちらは印象派以降を扱っています。長らくこの2冊が定番でしたが、2023年に岩波書店から図版をカラー化した『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』(231ページ)と『同Ⅱ 印象派からピカソまで』(248ページ)が刊行されました。旧版の正編・続編が、そのままⅠ・Ⅱに対応する形です。図版で細部を確かめながら読める点で、これから買うならカラー版が有利です。
著者について
高階秀爾(1932-2024)は日本の西洋美術史研究を代表する一人です。東京大学教養学部を卒業後フランスに学び、帰国後は東京大学で教鞭を執りました。国立西洋美術館の館長、のちに大原美術館の館長も務め、研究者であると同時に美術館運営の現場に立ち続けた人でもあります。本書が刊行されたのは著者が30代の終わりの頃で、日本にまだ西洋絵画の実物が少なかった時代に、読者を絵の前に立たせるつもりで書かれた本でした。
内容の骨格
1. 1枚の絵を隅々まで読み解く「精読」の面白さ
Ⅰの冒頭で扱われるのが、ファン・アイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」です。一見ただの夫婦の肖像画ですが、背後の鏡に映り込む人物、床に置かれた靴、シャンデリアの蝋燭に至るまで、著者は驚くほど緻密に読み解いていきます。
2. 15点の名画でたどる、西洋絵画の技法の進化
ボッティチェリの「春」、ベラスケスの「ラス・メニーナス(宮廷の侍女たち)」、フェルメールの「絵画芸術」など、章を追うごとに時代が進み、遠近法や写実表現がどう発展したかが自然と見えてきます。1点ずつ読み進めることで、技法の変遷を体系的に理解できる構成です。
3. 半世紀読み継がれる、平易で誠実な語り口
専門用語を振りかざさず、一般読者に語りかける文体で書かれています。刊行から半世紀以上を経ていまも版を重ねている事実が、その読みやすさと内容の確かさを物語っています。
どんな読者に向くか
予備知識は不要です。1章=1作品で完結するため、通読しても、興味のある画家の章だけ引いてもよい本です。展覧会でその画家の作品に出会う前に該当章だけ読む、という使い方が実用的です。ただし美術史の通史ではないので、時代の流れを一望したい人は『美術の物語』のような概説書を併読するとよいでしょう。また、扱われるのは西洋の油彩画に限られます。
関連して見に行けるもの
本書で扱われる名画の多くは欧米の美術館の所蔵ですが、著者が館長を務めた東京・上野の国立西洋美術館では、同じ時代の西洋絵画を常設展示で見られます。同じく著者が館長を務めた岡山県倉敷市の大原美術館も、西洋美術中心の私立美術館として1930年に開館した館です。徳島県鳴門市の大塚国際美術館なら、「アルノルフィニ夫妻の肖像」や「ラス・メニーナス」を含む西洋名画を陶板の原寸大複製で確かめられます。本書の「精読」を実地で試すには格好の場所です。
まとめ
『名画を見る眼』は、絵を「知識」ではなく「観察」で読み解く方法を教えてくれる一冊です。次に美術館を訪れるときは、1枚の絵の前でじっくり足を止めてみてください。
Kindle版:カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで(岩波新書)
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