『名画の謎 ギリシャ神話篇』:名画に隠されたギリシャ神話の物語を読み解く

『名画の謎 ギリシャ神話篇』:名画に隠されたギリシャ神話の物語を読み解く

『怖い絵』の中野京子が、ギリシャ神話を主題とした西洋絵画を1点ずつ読み解く人気シリーズの一冊。神話のあらすじと絵に隠された謎を、全20話構成で解説する美術エッセイ。

はじめに:名画を読むには、神話を知らなければならない

西洋絵画には、ギリシャ神話を題材にした作品が数え切れないほど存在します。しかし神話の筋を知らなければ、絵に込められた意味の半分も読み取れません。その橋渡しをしてくれるのが『名画の謎 ギリシャ神話篇』(中野京子 著)です。名画1点ごとに神話のあらすじと、そこに隠された謎を解き明かしていきます。

書誌:単行本と文庫で書名が違います

本書はもともと2011年3月に文藝春秋から『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』として刊行された単行本です。のちに文春文庫に収められる際、書名が『名画の謎 ギリシャ神話篇』と短くなりました。文庫化はこのシリーズの第一弾で、2015年のことです。単行本262ページ、文庫272ページで、全20話の構成です。書店やネット書店で探すときは、この二つの書名が同じ本を指すことを覚えておくと迷いません。

「名画の謎」はシリーズもので、本書に続いて『旧約・新約聖書篇』『陰謀の歴史篇』『対決篇』が刊行されています。西洋絵画の主題は神話と聖書に大きく分かれるため、本書と『旧約・新約聖書篇』の2冊をそろえると、美術館で出会う主題のかなりの部分をカバーできます。

著者について

著者の中野京子はドイツ文学者・西洋文化史家で、早稲田大学大学院文学研究科で学びました。名画の背後にある歴史や人間関係を語る書き手として広く知られ、代表作は2007年に朝日出版社から出た『怖い絵』とその続編群です。2017年には著者が監修した「怖い絵展」が兵庫県立美術館と上野の森美術館で開かれ、大きな話題になりました。ほかに『名画で読み解く』シリーズなど、王家や歴史を絵画から読む著作も多数あります。美術史の専門家ではなく、歴史と文学の側から絵に近づく書き手だという点が、この人の本の性格を決めています。

内容の骨格

1. 絵と神話、二つの物語を同時に楽しめる構成

1点の絵につき、まず神話のあらすじが語られ、続いて画家がその神話のどの場面を、どういう意図で切り取ったのかが解説されます。神話そのものの面白さと、絵画の読み解きの面白さを一度に味わえる構成です。

2. 人間くさい神々の物語

ギリシャ神話には、自ら彫った彫像に恋をしたピグマリオンのように、人間味あふれる話が数多く残されています。そうした物語を主題にした名画を通して、神話の世界がぐっと身近になります。

3. 少しダークで知的な語り口

名画の裏に潜む人間の欲望や悲劇を鋭く読み解く語り口は本書でも健在で、美しい絵の背後にある神話の残酷さや皮肉が、読後も強く印象に残ります。

どんな読者に向くか

予備知識はまったく必要ありません。1話が短く独立しているので、通読しても、気になる絵の話だけ拾い読みしてもよいタイプの本です。むしろ美術館に行く前後に、その日出会った主題の項を引く辞書的な使い方が向いています。一方、ギリシャ神話そのものを体系的に学びたい人には向きません。あくまで「絵から入る神話」の本です。

関連して見に行けるもの

神話画をまとめて見るなら、東京・上野の国立西洋美術館が第一候補です。ルネサンス以降の西洋絵画を常設展示しており、神話を主題にした作品にも出会えます。徳島県鳴門市の大塚国際美術館では、西洋の名画を陶板で原寸大に複製した1000点余りが一堂に並び、ボッティチェリなど神話画の代表作の構図をまとめて確かめられます。本書で予習してから訪ねると、絵の中の暗示に自分で気づけるようになります。

まとめ

『名画の謎 ギリシャ神話篇』は、名画と神話という二つの物語を同時に楽しめる一冊です。西洋絵画をより深く味わうための「もう一つの教養」として、手に取る価値があります。

Kindle版:名画の謎 ギリシャ神話篇(文春文庫)