真珠の耳飾りの少女:肖像画ではない「トローニー」

真珠の耳飾りの少女:肖像画ではない「トローニー」

名画
作者
ヨハネス・フェルメール
制作年
1665年頃
所蔵
マウリッツハイス美術館
所在地
オランダ・デン・ハーグ

フェルメールが1665年頃に描いた縦44.5センチの小品。オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館が所蔵し、通常は15番の展示室にあります。2026年夏は大阪中之島美術館へ貸し出されています。

《真珠の耳飾りの少女》は、ヨハネス・フェルメールが1665年頃に描いた縦44.5センチ×横39センチの小さな絵です。オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館が所蔵し、同館の象徴として親しまれています。特定の誰かを描いた肖像画ではない、という点が長く議論されてきました。

真珠の耳飾りの少女とは

マウリッツハイス美術館の記録では、制作年は1665年頃、技法はカンヴァスに油彩、寸法は44.5×39センチ、所蔵番号は670です。1902年から同館のコレクションに入っています。

この絵は肖像画ではなく「トローニー」と呼ばれる種類の作品です。トローニーとは、実在の人物を記録するのではなく、ある人物像の類型や表情を描くために制作された絵のこと。ここでは異国風の装いをまとった娘という設定で、頭にはターバン、耳にはありえないほど大きな真珠が描かれています。つまりモデルの身元を探る問いは、そもそも作品の目的から外れているわけです。

どこで見られる?

  • 所蔵先:マウリッツハイス美術館(Mauritshuis、王立絵画館)
  • 都市:オランダ・デン・ハーグ
  • 展示室:通常は15番の展示室に掛けられています。17世紀の邸宅を美術館に転用した建物で、部屋数が少なく、名品との距離が近いのが特徴です。
  • 2026年の注意:この作品は10年以上ぶりの海外貸出として、2026年8月21日から9月27日まで大阪中之島美術館で公開されます。2026年8月24日から9月20日まで、マウリッツハイス美術館は改修工事のため休館します。大阪の会期の前後にあたる8月21日から23日と9月21日から27日は開館していますが、その間も本作は大阪にあります。この時期にデン・ハーグを訪れても館内では見られません。
  • 予約:入館は日時指定のオンライン予約が基本です。大阪での展示も日時指定制で、会場での当日券販売はありません。

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 真珠のハイライト:近づいて見ると、真珠は丸く塗られてはいません。白い絵具を二筆ほど置いただけで、しかも下端には輪郭がなく、襟の白がそのまま反射として機能しています。離れて見た瞬間だけ球体に見える、極端に省略された描き方です。
  • ウルトラマリンの青:ターバンにはラピスラズリを砕いた高価な顔料が使われています。青は影の部分にも回り込み、黄色い布との対比で画面に張りを生みます。
  • 暗い背景と振り向く動き:背景は当初、暗い緑の艶のある層として塗られていました。輪郭を溶かす闇の中から少女が肩越しに振り返る一瞬が切り取られ、視線がまっすぐこちらへ届きます。

描かれた背景

17世紀のオランダは、市民が絵を買う市場が成立していた稀な社会でした。宗教画や王侯の肖像ではなく、風景、静物、室内の情景、そしてトローニーのような「顔の習作」が商品として流通します。フェルメールはデルフトで生涯に30数点しか残さなかったとされる寡作の画家で、その多くが室内の光を主題にしています。

この絵が世界的な知名度を得たのは20世紀以降のことです。修復によって背景の状態や絵具の層が調べられ、小説や映画の題材にもなったことで、「北のモナ・リザ」と呼ばれるほどの存在になりました。近年は非破壊の科学調査が進み、まつげの痕跡や背景に描かれていたカーテンの存在など、肉眼では見えない情報が次々に明らかになっています。

フェルメールの死後、この絵は長く行方が知られていませんでした。19世紀後半にオークションで再び姿を現したとき、価格はごくわずかだったと伝えられています。落札した収集家がマウリッツハイスに遺贈し、1902年から同館の所蔵品となりました。いま世界中から人が集まる一枚が、100年余り前まではほとんど無名だったわけです。

大きさも重要な情報です。44.5センチという画面は、複製で見慣れた印象よりずっと小さく感じられます。だからこそ、真珠の二筆や唇の端の淡い光といった省略の妙が、至近距離でしか成立しないことがわかります。実物を見る価値がはっきり出る作品と言えます。

まとめ

通常はデン・ハーグのマウリッツハイス美術館15番展示室で見られますが、2026年8月21日から9月27日までは大阪中之島美術館で公開されます。日本で見られる貴重な機会である一方、同時期のオランダ訪問では会えません。旅行の計画前に、両館の公式サイトで展示予定を必ず確認してください。