絵画芸術:フェルメールが生涯手放さなかったアトリエの寓意画

絵画芸術:フェルメールが生涯手放さなかったアトリエの寓意画

名画
作者
ヨハネス・フェルメール
制作年
1666-68年頃
所蔵
ウィーン美術史美術館
所在地
オーストリア・ウィーン

フェルメールが1666年から68年頃に描いた作品。アトリエで筆をとる画家の後ろ姿を通して、絵画という芸術そのものを讃えます。ウィーン美術史美術館の第12室に常設展示され、ヒトラーの手に渡った時期を含む複雑な来歴でも知られる一枚です。

《絵画芸術》(《絵画の寓意》)は、ヨハネス・フェルメールが1666年から68年頃に描いた作品です。画家自身のアトリエと思われる室内で、モデルを前に筆をとる画家の後ろ姿が描かれています。現在はオーストリアのウィーン美術史美術館が所蔵しています。

絵画芸術とは

ドイツ語の原題は「Die Malkunst」、英語では「The Art of Painting」。日本語では《絵画芸術》のほか《絵画の寓意》とも呼ばれます。油彩・カンヴァスで、寸法は120×100センチ。ウィーン美術史美術館・絵画館の所蔵番号は9128です。画面奥の壁に掛かる地図の下辺には「I Ver-Meer」の署名が記されています。手前には重い緞帳が引き上げられ、その奥に舞台のような室内が広がります。イーゼルに向かうのは背中を見せた画家で、モデルの女性は月桂冠をかぶり、トランペットと分厚い本を手にしています。この姿は、歴史を司るムーサであるクレイオを表すと解釈されるのが一般的です。額装した状態の外寸は152.5×133.5センチと記録されており、フェルメールの作品としては大きな部類に入ります。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ウィーン美術史美術館 絵画館(Gemäldegalerie)
  • 都市:オーストリア・ウィーン
  • 展示室:2階(1. Stock)の第12室(Saal XII)。オランダ・フランドル・ドイツ絵画を集めた区画にあります
  • 予約の要否:一般の入館に事前予約は必須とされていませんが、公式サイトでオンラインチケットを購入できます

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 壁を覆う大きな地図:背景に掛かるのは、クラース・ヤンスゾーン・フィスヘルが1636年に出版したネーデルラント17州の地図です。南北に分かれる以前の姿を示すこの地図は、絵画がこの地にもたらした名声の象徴と読まれることがあります。
  • モデルの持ち物:月桂冠、トランペット、書物は、いずれもチェーザレ・リーパの図像事典『イコノロジア』に由来する属性と考えられています。単なる室内画ではなく、絵画という芸術そのものを讃える寓意画として構想されていることが、この道具立てから読み取れます。
  • 手前の緞帳とシャンデリア:引き上げられた緞帳は、鑑賞者を覗き見る立場に置きます。天井から下がるシャンデリアには双頭の鷲の飾りがあり、細部にまで意味を込めた画面設計がうかがえます。

描かれた背景

フェルメールは、この絵を生前に手放しませんでした。1675年に画家が亡くなった後、妻カタリーナ・ボルネスは債権者の手に渡ることを避けるため、1676年に母マリア・ティンスへ譲っています。それでも作品は1677年にデルフトで競売にかけられました。その後ウィーンのゴットフリート・ファン・スヴィーテンの遺産に含まれ、1813年にルドルフ・チェルニン伯爵の手に渡り、長くチェルニン伯爵家の画廊に収まっていました。来歴が複雑さを増すのは20世紀です。1940年、この絵はアドルフ・ヒトラーが取得し、彼が構想したリンツの美術館のために確保されました。第二次世界大戦末期にはアルタウスゼーの岩塩坑に隠され、終戦後に連合軍が回収します。1945年にはミュンヘンの中央収集所へ移され、1946年11月7日にウィーン美術史美術館へ引き渡されました。作品が正式に同館のコレクションへ加えられたのは1958年です。チェルニン家の相続人は返還を求めましたが、1998年と2011年のいずれの審査でも請求は認められていません。

なぜフェルメールはこの絵を売らなかったのでしょうか。確かなことは分かっていませんが、画家としての腕前を示す見本、いわば工房の看板として手元に置いたのではないかという見方があります。実際この絵には、遠近法の精密な処理、地図の細かな文字、緞帳の重い織り、逆光のなかの人物といった、当時の画家に求められた技量がひととおり詰め込まれています。背中を向けた画家の顔が見えないことも、特定の個人ではなく画家という職業そのものを描いた絵だという解釈を支えています。

まとめ

《絵画芸術》は、画家の仕事場を描きながら、絵画という営みそのものを称える一枚です。ウィーン美術史美術館の第12室で、常設展示としてじっくり向き合えます。ナチス期をまたぐ来歴も含めて知っておくと、この静かな室内の場面がまったく違う重みをもって見えてくるはずです。