海辺に立つブルターニュの少女たち:平らな色面で描いたゴーガンの海
- 作者
- ポール・ゴーガン
- 制作年
- 1889年
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
上野の国立西洋美術館が所蔵する、ポール・ゴーガン1889年の油彩です。ブルターニュの海辺に立つ二人の少女を、平坦な色面と様式化された波で描いています。松方幸次郎が集めた作品としてフランス政府に接収され、1959年に返還された一点。いまは常設展で公開されています。
上野の国立西洋美術館で、いつでも会える西洋絵画のひとつがポール・ゴーガンの《海辺に立つブルターニュの少女たち》です。フランス北西部ブルターニュ地方の海辺で、民族衣装をまとった二人の少女が立つ姿を描いています。松方コレクションの一点としてフランスから返還され、いまは常設展で公開されています。
海辺に立つブルターニュの少女たちとは
ポール・ゴーガン(1848-1903年)が1889年に制作した油彩・カンヴァスの作品です。大きさは92.5×73.6センチ、国立西洋美術館の所蔵番号はP.1959-0106です。
ゴーガンは1880年代を通じてブルターニュ地方に繰り返し滞在し、都会のパリとは異なる素朴な風土に題材を求めました。この作品は1889年の秋、海沿いの村ル・プールデュで描かれたもので、ゴーガンのブルターニュ時代を代表する一点とされています。二人の少女は裸足で、白い被り物をつけ、ブルターニュの伝統的な衣装を身につけています。背景には断崖と入り江が広がり、この地方特有の海岸風景がひらけています。
ゴーガンは株式仲買人として働きながら絵を描き始め、30代後半で画業に専念する道を選びました。印象派の画家たちと交わりながらも、目に映る光を写し取る方向にはとどまらず、線と色そのものが感情を運ぶ絵画を探し続けます。ブルターニュ滞在は、その模索がかたちになった時期にあたります。
そして本作の2年後、1891年にゴーガンはタヒチへ旅立ちます。ブルターニュでの実験は、その後の南太平洋の作品へつながる出発点にもなりました。
どこで見られる?
- 所蔵先 国立西洋美術館(独立行政法人国立美術館)
- 所在地 東京都台東区上野公園7-7。JR上野駅公園口から歩いてすぐの上野公園内にあります。
- 展示状況 同館の所蔵作品検索では「展示中」と表示されており、常設展で公開されています。
- 観覧料 常設展は一般500円、大学生250円、高校生以下は無料です。開館時間は9時30分から17時30分まで、金曜・土曜は20時まで。休館日は月曜日(祝日の場合は開館)と年末年始です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 画面をおおう平坦な色面 陰影を重ねて立体をつくるのではなく、輪郭で区切られた色の面を並べていく描き方が画面全体に用いられています。西洋絵画が長く追い求めてきた奥行きの表現から、意識して離れた画面だといえます。
- 様式化された波 背景の海は、写実的に泡立つ波ではなく、いくつかの曲線に整理された模様のように描かれています。自然を見たまま写すのではなく、記憶と装飾に置きかえていくゴーガンの態度がよくわかる部分です。
- 中心を外した人物の配置 二人の少女は画面のまん中には置かれていません。端に寄せられた人物と、大きくとられた背景の対比が、静かな緊張と広がりを同時に生んでいます。
この絵が日本にある理由
この作品を購入したのは、実業家の松方幸次郎です。松方は第一次世界大戦期の造船業の好況を背景に、ヨーロッパで大量の美術品を買い集めました。日本の若い画家たちが本物の西洋美術を国内で見られるようにしたい、という考えがあったと伝えられています。
しかしフランスに残されていた作品群は、第二次世界大戦中の1944年にフランス政府によって接収されてしまいます。戦後の交渉を経て、1959年にフランス政府から日本へ寄贈返還されることが決まり、この作品も海を渡ってきました。
返還された松方コレクションを収蔵・公開するために設立されたのが、ほかならぬ国立西洋美術館です。つまりこの絵は、美術館そのものの成り立ちに関わる一点だといえます。
まとめ
《海辺に立つブルターニュの少女たち》は、ゴーガンがタヒチへ向かう直前にたどりついた造形を示す作品です。平らな色面、様式化された波、大胆な配置という三つの要素を、上野の常設展で落ち着いて確かめられます。松方コレクションの歴史とあわせて見ると、一枚の絵の背後にある長い旅路まで見えてくるはずです。


