ゴッホ《ばら》:療養院の庭で咲いた、うねる筆の花

ゴッホ《ばら》:療養院の庭で咲いた、うねる筆の花

名画
作者
フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年
1889年
所蔵
国立西洋美術館
所在地
東京都台東区

ファン・ゴッホが1889年、入院先のサン=レミの精神療養院に咲くばらを描いた小品。最晩年に特徴的な激しくうねる筆づかいがすでに現れています。国立西洋美術館の松方コレクションの一点で、常設展で見られます。

フィンセント・ファン・ゴッホの《ばら》は、東京・上野の国立西洋美術館が所蔵する、横41センチほどの小さな油彩画です。描かれたのは1889年、画家が入院していた南フランス、サン=レミの精神療養院に咲いていたばらでした。最晩年の作品に特徴的な、激しくうねるような筆づかいがすでに認められる一点です。

《ばら》とは

正式な作品名は《ばら》(英題Roses)、作者はフィンセント・ファン・ゴッホ、制作年は1889年です。技法は油彩・カンヴァスで、寸法は33×41.3センチ。国立西洋美術館の所蔵番号はP.1959-0193です。ゴッホの《ばら》を名乗る作品は各国の美術館にありますが、上野で見られるのはこの一点です。

ゴッホは印象派や日本の浮世絵などの影響を受け、独自の表現主義的な色彩表現を発達させました。1888年末、画家は南仏アルルにゴーガンを呼び寄せて共同生活を始めますが、やがて精神の発作に襲われます。本作は、その翌1889年に入院したサン=レミの精神療養院に咲くばらを描いたものです。多くの作品を手がけたのち、1890年にゴッホは自ら命を絶ちました。

小品ながら国際的な評価は高く、2012年にはカナダ・ナショナル・ギャラリーとフィラデルフィア美術館を巡回した「Van Gogh: Up Close」展に、2024年から2025年にかけてはロンドンのナショナル・ギャラリーで開かれた「Van Gogh: Poets & Lovers」展に出品されました。国内でも1985年の「ゴッホ展」や2019年の「松方コレクション展」など、節目の展覧会に繰り返し登場しています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:国立西洋美術館
  • 所在地:東京都台東区上野公園7-7(JR上野駅公園口からすぐ)
  • 展示状況:常設展(コレクション展)で展示中です
  • 観覧料:常設展(コレクション展)は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料
  • 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • うねるような筆づかい:花と葉の一筆一筆がねじれ、渦を巻くように置かれています。最晩年の作品に共通するこの筆致が、すでにはっきりと現れている点が本作の見どころです。
  • 療養院の庭という主題:入院という厳しい状況のなかで、画家が身近な庭の草花に目を向けていたことが分かります。題材そのものが、この時期のゴッホの日々を伝えています。
  • 手のひらに近いサイズ感:33×41.3センチという小ささも見どころです。大作の前では見落としやすいので、近づいて絵具の盛り上がりを確かめてみてください。

この絵が日本にある理由

本作は「松方コレクション」の一点です。国立西洋美術館が公開する来歴によれば、この絵はゴッホの死の年である1890年から1909年まで、オーヴェール=シュル=オワーズのガシェ医師のもとにありました。その後パリのポール・ローザンベール画廊を経て松方幸次郎が購入し、1944年にフランス政府が接収、1959年にフランス政府から寄贈返還されて同館の所蔵となりました。

松方幸次郎は川崎造船所の初代社長を務めた実業家で、第一次世界大戦期のロンドン滞在をきっかけに、1916年ごろから1920年代半ばにかけてヨーロッパへ足しげく通い、絵画や彫刻から家具、タペストリーまで膨大な美術品を買い集めました。その総数は1万点を超えたと言われます。

ところがパリに残された約400点は戦時中にフランス政府に接収され、戦後の1951年のサンフランシスコ平和条約によって正式にフランス国有となってしまいます。その後フランス政府は日仏友好のため、その大半を「松方コレクション」として日本へ寄贈返還することを決めました。返還された作品を受け入れる器として1959年に開館したのが、国立西洋美術館です。本館はル・コルビュジエの設計で、2016年には世界遺産にも登録されています。

まとめ

《ばら》は、ゴッホが最晩年に到達した筆づかいを、小さな画面のなかに凝縮して見せてくれる作品です。2024年から2025年にかけてはロンドンのナショナル・ギャラリーの展覧会にも出品された、国際的に評価の高い一点でもあります。上野公園の国立西洋美術館で、常設展の観覧料だけで会えます。訪れる前に、公式サイトで展示状況を確認しておきましょう。