クールベ《波》:物語を一切排して描かれた、エトルタの荒海
- 作者
- ギュスターヴ・クールベ
- 制作年
- 1870年頃
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
写実主義の巨匠クールベが1870年頃に描いた海の絵。ノルマンディー地方エトルタの嵐の海を、物語要素を一切排して捉えます。国立西洋美術館が所蔵する松方コレクションの一点で、展示は時期によって入れ替わります。
ギュスターヴ・クールベの《波》は、東京・上野の国立西洋美術館が所蔵する松方コレクションの一点です。描かれているのは、ノルマンディー地方エトルタの嵐の海。神話も人物も物語も一切登場せず、ただ荒れる海と重い空だけが画面を占めています。写実主義の画家が到達した、そっけないほど率直な自然の姿です。
《波》とは
正式な作品名は《波》(英題Waves)、作者はギュスターヴ・クールベ、制作年は1870年頃です。技法は油彩・カンヴァスで、寸法は72.5×92.5センチ。国立西洋美術館の所蔵番号はP.1959-0062で、画面の左下に「G. Courbet.」の署名があります。
フランスの山岳地帯オルナンに育ったクールベにとって、海は長いあいだ未知の世界でした。その彼が1860年代後半から、この雄大なモチーフに本格的に取り組むようになります。本作はその成果のひとつで、1870年ごろの制作とされています。クールベはエトルタで波を主題とした作品を複数手がけており、上野で見られるのはそのうちの一点です。
国立西洋美術館は、この絵について「画面からは物語要素が一切排され、峻厳な自然の実相が客観的に捉えられています」と解説しています。神話や歴史を借りずに、目の前にあるものだけを描く。それが写実主義を掲げたクールベの姿勢でした。同館は本作のほかにも《もの思うジプシー女》《肌ぬぎの女》《罠にかかった狐》など、複数のクールベ作品を所蔵しています。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館
- 所在地:東京都台東区上野公園7-7(JR上野駅公園口からすぐ)
- 展示状況:取材時点では常設展に展示されていません。公式サイトの所蔵作品検索で「展示中」かどうかを確認できます
- 観覧料:常設展(コレクション展)は一般500円、大学生250円、高校生以下と65歳以上は無料
- 休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 手前に迫ってくる大波:画面の半分を荒れる海が占め、ダイナミックに表現された大波のうねりは、カンヴァスの枠を越えて手前に迫ってくるようです。
- 海と空の色彩対比:黒い青緑色をした海と、灰色がかった茜色の空。この対比が、簡潔な構図の絵に強い緊張感を与えています。
- 絵筆とペインティングナイフの使い分け:波頭の白と重い雲では、質感の描き分けがまったく違います。クールベはペインティングナイフを併用し、海のかたまりのような重さを作り出しました。
この絵が日本にある理由
本作は「松方コレクション」の一点です。国立西洋美術館が公開する来歴によれば、この絵は1908年のパリの競売でグラットが落札し、1919年の売立でバルバザンジュの手に渡り、パリのジョン・レヴィ画廊を経て松方幸次郎が購入しました。その後1944年にフランス政府が接収し、1959年にフランス政府から寄贈返還されて同館の所蔵となっています。
松方幸次郎は川崎造船所の初代社長を務めた実業家で、第一次世界大戦期のロンドン滞在をきっかけに、1916年ごろから1920年代半ばにかけてヨーロッパへ足しげく通い、絵画や彫刻から家具、タペストリーまで膨大な美術品を買い集めました。その総数は1万点を超えたと言われます。
ところがパリに残された約400点は戦時中にフランス政府に接収され、戦後の1951年のサンフランシスコ平和条約によって正式にフランス国有となってしまいます。その後フランス政府は日仏友好のため、その大半を「松方コレクション」として日本へ寄贈返還することを決めました。返還された作品を受け入れる器として1959年に開館したのが、国立西洋美術館です。本館はル・コルビュジエの設計で、2016年には世界遺産にも登録されています。
まとめ
《波》は、物語も寓意もなしに、峻厳な自然の実相だけを客観的に捉えた作品です。簡潔な構図でありながら、色彩対比と質感の描き分けにクールベのすぐれた技量がうかがえます。国立西洋美術館の常設展は展示替えがあるため、この一点を目当てに出かけるなら、公式サイトの所蔵作品検索で「展示中」かどうかを事前に確かめておくことをおすすめします。


