森万里子:光と祈りを彫刻にする作家

森万里子:光と祈りを彫刻にする作家

画家

サイボーグ姿の自撮り写真で1990年代に世界へ出た森万里子は、いま宮古島の海辺に光の柱を立て、豊島では星の死に反応するガラスを光らせています。テクノロジーと祈りを結ぶ作家の全体像を、2026年秋には森美術館の大規模個展で見られます。

森万里子(1967-)は、テクノロジーと祈りを結びつける現代美術家です。1990年代、未来的な衣装を着て東京の街に立つ自らの写真で国際的に知られ、その後は光を放つ彫刻や、自然の中に恒久設置する作品へ向かいました。ニューヨーク、東京、宮古島を拠点に活動しています。

経歴

1967年、東京に生まれました。ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アートを1992年に卒業し、翌年ニューヨークのホイットニー美術館インディペンデント・スタディ・プログラムを修了します。

1990年代半ば、SF映画のヒロインのような姿で日本の日常風景に立つ写真作品を発表し、一気に注目を集めました。1997年のヴェネチア・ビエンナーレで優秀賞を受け、翌年にはロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで個展。1999年にブルックリン美術館とプラダ財団、2000年にポンピドゥ・センターと、主要館で個展が続きました。2002年には東京都現代美術館で日本初の大規模個展「ピュアランド」を開いています。

2010年、自作の恒久設置を進めるための非営利団体、Faou財団を設立しました。2022年には宮古島にスタジオを建て、現在はニューヨーク、東京、宮古島に暮らしています。

作風と手法

初期の写真作品では、作家自身がサイボーグや巫女、天女のような姿に扮して画面に登場しました。ポップで派手な見た目の裏には、「人間の意識はどこへ向かうのか」という真面目な問いがあります。

2000年代に入ると、作品は光そのものに近づきます。脳波を映像に変換して見せるカプセル型の作品、ガラスやアクリルを積層して内側から発光させる彫刻。仏教の世界観、宇宙の観測データ、最新の素材技術が一つの作品の中で同居します。森はこれらを通して、時間と空間を超えて生命がつながっている状態、「ワンネス」を表そうとしています。

主な作品

  • 《巫女の祈り》(1996年):白い衣装の作家が透明な球を手にして祈る映像作品。初期の代表作です。
  • 《Wave UFO》(1999-2002年):宇宙船のような形のカプセルに入り、自分の脳波が映像になるのを見る体験型作品。2003年にオーストリアのブレゲンツ美術館で公開されました。
  • 《トムナフーリ》(2010年):高さ3メートルのガラスの立体。岐阜県の観測施設スーパーカミオカンデとつながり、超新星爆発のニュートリノを受信すると光ります。香川県・豊島に設置されています。
  • 《サンピラー》(2011年):宮古島の七光湾に恒久設置された、積層アクリルの光の柱。冬至に湾を横切る影を落とすよう配置されています。Faou財団の「プライマル・リズム」プロジェクトの第1作です。
  • 《リング:自然とひとつに》(2016年):リオデジャネイロ・オリンピックの文化プログラムとして、滝の上に恒久設置された光る輪です。

国際的な評価

1997年の第47回ヴェネチア・ビエンナーレで優秀賞を受けたのを皮切りに、サーペンタイン・ギャラリー、ブルックリン美術館、ポンピドゥ・センターなど欧米の主要館で個展を重ねてきました。2005年にはヴェネチア・ビエンナーレに再び参加。2012年にはロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで個展を開き、ニューヨークとパースへ巡回しています。2001年に第8回日本現代藝術奨励賞、2014年にはロンドン芸術大学から名誉フェローの称号を受けました。Faou財団による恒久設置は日本とブラジルで実現し、6大陸に一つずつ置く構想が進んでいます。

日本で見られる場所

森の作品は、美術館より自然の中にあります。

宮古島の七光湾(沖縄県宮古島市狩俣)には、《サンピラー》が2011年から恒久設置されています。岬の岩の上に立つ高さ約4メートルの半透明の柱で、朝夕や季節で表情が変わります。海に浮かべる予定の《ムーンストーン》はまだ実現していません。周囲は自然の海岸です。

豊島(香川県土庄町)には、ベネッセアートサイト直島の一つとして《トムナフーリ》があります。竹林に囲まれた池の中央に立ち、スーパーカミオカンデからニュートリノのデータを受けると発光する作品ですが、現在はメンテナンスのため公開を中止しています(再開後の公開時間は10:30〜16:30、鑑賞料300円)。再開の予定はベネッセアートサイト直島の公式サイトで確認してください。

東京では、森美術館が初期の写真作品を所蔵しています。常設展示ではありませんが、2026年10月31日から2027年3月28日まで、同館で日本では24年ぶりの大規模個展「森万里子:燦燦」が開かれ、約40点が並びます。全体像を見るなら、この機会です。

見どころ

森の作品は、見る時間帯で別物になります。宮古島の《サンピラー》なら、できれば夕方まで待ってください。半透明の柱が海と空の色を吸い込み、辺りが暗くなるほど存在感を増します。美術館で映像や光の彫刻を見るときも、少し長く立ち止まること。派手な見た目の作品が、静かな祈りの場に変わる瞬間があります。