ジョン・エヴァレット・ミレイ:《オフィーリア》を描いた神童、ラファエル前派の若き旗手

ジョン・エヴァレット・ミレイ:《オフィーリア》を描いた神童、ラファエル前派の若き旗手

画家

史上最年少でロイヤル・アカデミーに入学した神童ジョン・エヴァレット・ミレイ。ラファエル前派を結成し、川に浮かぶ《オフィーリア》で英国美術史に不滅の名を刻んだ画家の生涯。

ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896)は、19世紀イギリスの画家です。1848年、20歳前の仲間たちとともに「ラファエル前派兄弟団」を結成し、細部まで妥協なく自然を描く絵画で美術界に旋風を巻き起こしました。シェイクスピア『ハムレット』の悲劇のヒロインを描いた《オフィーリア》は、イギリス絵画で最も有名な作品のひとつとして、いまもテート・ブリテンで多くの人を惹きつけています。

生涯

1829年、イングランド南岸の港町サウサンプトンに生まれ、幼少期をジャージー島で過ごしました。幼いころから画才で知られ、1840年、11歳でロイヤル・アカデミー付属美術学校に史上最年少で入学します。しかしその模範生は、1848年、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントらとラファエル前派兄弟団を結成し、アカデミーの教育に反旗を翻しました。ラファエロ以降の型にはまった構図法を捨て、初期イタリア絵画のような率直さと、自然の直接観察に立ち返ろうという運動です。

細密描写を極めた《両親の家のキリスト》は「聖なる場面を大工小屋のように描いた」と酷評され、作家ディケンズまでもが激しく非難しました。しかし評論家ジョン・ラスキンが擁護に回ったことで潮目が変わります。やがてミレイは、ラスキンの妻エフィー・グレイと親密になり、1854年に彼女の婚姻無効が認められた翌1855年に結婚しました。ヴィクトリア朝を騒がせた出来事です。

後年は肖像画や子どもを描いた作品で国民的な人気を博し、1885年には准男爵に叙されます。1896年2月にロイヤル・アカデミー会長に選出されますが、喉頭がんのためその年の8月に67歳で亡くなりました。

画風の特徴

ラファエル前派期のミレイは、白い下地が乾かないうちに透明な絵具を薄く乗せる技法を用い、宝石のように澄んだ発色を得ました。焦点は画面の隅々まで均等で、遠くの葉一枚にもピントが合っています。制作は徹底した戸外写生で、《オフィーリア》の背景は実際の川辺に数か月通って描かれました。後年になると筆はぐっと自由になり、大きな筆致で大気や毛皮の柔らかさを表す、より絵画的な様式へ移っていきます。

代表作

  • オフィーリア(1851-52年、ロンドン、テート・ブリテン):川に浮かびながら歌い、沈んでいくオフィーリア。背景はサリー州のホグスミル川で写生され、モデルのエリザベス・シダルは水を張った浴槽に横たわり続けたと伝えられます。
  • 両親の家のキリスト(1849-50年、テート・ブリテン):大工ヨセフの作業場にいる少年キリストを、理想化を排して描いた問題作。ラファエル前派の理念を最も純粋に体現した一点です。
  • マリアナ(1851年、テート・ブリテン):テニスンの詩に基づく作品。刺繍の手を止めて背を反らす女性の姿に、待ち続ける倦怠が込められています。
  • 1746年の釈放令(1852-53年、テート・ブリテン):夫の釈放状を差し出す妻を描いた作品で、モデルはのちに妻となるエフィーです。
  • シャボン玉(1886年):シャボン玉を見上げる幼い少年を描いた晩年の人気作。ペアーズ石鹸の広告に使われ、美術と広告の関係をめぐる論争を呼びました。

同時代の画家との関係

ロセッティ、ハントとはラファエル前派の中核として出発しましたが、三人の道はやがて分かれます。ロセッティは幻想的な女性像へ、ハントは宗教的写実へ、ミレイは英国画壇の主流へ進みました。批評家ジョン・ラスキンは初期の最大の擁護者でしたが、妻をめぐる一件で決裂しています。次世代のエドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリスは、ロセッティを介してラファエル前派の理念を受け継ぎました。

日本で見られるか

代表作の多くはテート・ブリテンをはじめとする英国の美術館にあります。国内では、国立西洋美術館が《あひるの子》(1889年)と《狼の巣穴》(1863年)を所蔵しています。国内に主要作品は少ないものの、英国の美術館のコレクションを借りたラファエル前派展はこれまで何度も日本で開催されており、《オフィーリア》も来日したことがあります。

見どころ

《オフィーリア》の前に立ったら、まず水面を見てください。水中に沈む部分と水面に浮かぶ部分で、絵具の透明度が変えられています。次に岸辺の草花を一つずつ確かめましょう。ヤナギ、イラクサ、ヒナギク、ケシ——それぞれが悲しみや眠りといった意味を持つ花で、絵は視覚的な詩として編まれています。そして最後にオフィーリアの表情へ戻ってください。恐怖でも苦悶でもない、奇妙に静かな顔が、この絵を忘れがたいものにしています。

代表作ギャラリー

オフィーリア
オフィーリア1852年テート・ブリテン
盲目の少女
盲目の少女1856年バーミンガム美術館
イザベラ
イザベラ1849年ウォーカー・アート・ギャラリー
両親の家のキリスト
両親の家のキリスト1849年テイト・ブリテン
秋の落ち葉
秋の落ち葉1856年マンチェスター市立美術館
ロレンツォとイザベラ
ロレンツォとイザベラ1849年ウォーカー・アート・ギャラリー
マリアナ
マリアナ1851年テイト・ブリテン
ブラック・ブランズウィッカー
ブラック・ブランズウィッカー1860年レディ・リーヴァー美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)