雪舟:室町時代に中国へ渡り、日本の力強い「水墨画の美」を確立した画聖
明(中国)に留学して本場の画風を学び、日本の自然に適した「力強く、明快な水墨画」を生み出した雪舟。全長16メートルの「四季山水図巻」などの名作を残し、日本の絵画の独立を成し遂げた偉人の一生の物語。
雪舟等楊(1420-1506)は、室町時代に活躍した禅僧であり画家です。明(中国)に渡って本場の水墨画に学び、日本独自の力強い水墨表現を確立したことから、後世「画聖」と称えられました。
生涯:備中から京都、そして明へ
1420年、備中国赤浜(現在の岡山県総社市)に生まれました。幼くして近隣の禅寺に入り、のちに京都の相国寺へ移って、春林周藤のもとで禅の修行を積みます。画は同寺の画僧・周文に学んだと考えられています。
雪舟が初めて山口に来たのは30歳半ばのころ(享徳3年=1454年頃)で、大内教弘の庇護を受けた。1467年の遣明船で渡明し、1469年帰国。1483年に再び山口へ戻り、1506年に数え87歳で没するまで雲谷庵を拠点とした。山口に構えた画室は「雲谷庵(うんこくあん)」と呼ばれます。1467年、大内氏が派遣した遣明船に同乗して明へ渡り、寧波から北京まで足を延ばして各地の山河を実見しました。北京では官庁の壁画を任されたと伝えられ、現地でも評価を得ています。1469年に帰国。
以後は山口を拠点としながら、九州から東は丹後、さらに関東まで各地を旅し、実際の風景に基づく作品を数多く残しました。1486年には代表作《四季山水図巻》を完成させ、1495年、76歳のときには《破墨山水図》を弟子に与えています。没年は1506年とされますが、諸説あります。なお、修行中に涙で床に鼠を描いたという逸話は、江戸時代以降に語られるようになった伝承で、同時代の記録によるものではありません。
画風の特徴
雪舟の水墨画は、輪郭線の強さで知られます。中国・南宋の夏珪(かけい)や馬遠に学びながら、雪舟はより太く、より角ばった線で岩や崖を切り出し、画面に骨格を与えました。墨は極端な濃淡で対比され、余白は霧や水面としてはたらきます。一方で《破墨山水図》のように、輪郭を用いず墨をにじませて形をつくる「破墨」の手法も駆使しました。また《天橋立図》に見られるように、実在の風景を高い視点から観察して描く態度も、それ以前の観念的な中国風山水とは異なる特色です。着色作品もあり、水墨一辺倒ではありませんでした。
代表作
雪舟には国宝に指定された作品が6件あり、これは日本の絵画で最多です。
- 秋冬山水図(国宝・東京国立博物館):二幅対のうち「冬景」は、画面を垂直に断ち切る太い線で崖を表し、冬の張りつめた空気を感じさせます。
- 四季山水図巻(山水長巻)(1486年・国宝・毛利博物館、山口県防府市):全長約16メートルの絵巻。春から冬へと移る山水と人々の営みを描いた画業の集大成です。
- 天橋立図(国宝・京都国立博物館):晩年の作。丹後の名勝を俯瞰の視点で緻密に描き、実景に基づく風景画として画期をなします。
- 破墨山水図(1495年・国宝・東京国立博物館):弟子に与えた作品で、雪舟自身の序文と京都五山の禅僧6人の詩が添えられています。
- 慧可断臂図(1496年・国宝・斉年寺、愛知県常滑市):達磨に弟子入りを求めて自らの腕を断つ慧可を描いた人物画です。
同時代の画家との関係
雪舟は相国寺で周文の系譜に連なる画法を学びました。周文は室町幕府の御用絵師で、雪舟はその後継に位置づけられます。同時代の京都画壇では、狩野派の祖・狩野正信が幕府に仕えていましたが、雪舟は中央の画壇に留まらず地方を拠点とした点が対照的です。弟子には秋月等観、宗淵らがおり、山口の雲谷庵の名は、のちに毛利家の御用絵師となった雲谷等顔の一派に受け継がれました。雪舟の様式は、狩野元信・永徳の狩野派や長谷川等伯にも取り込まれ、日本の水墨画の基準となっていきます。
日本で見られるか
作品はすべて国内にあります。東京国立博物館(東京・上野)が《秋冬山水図》《破墨山水図》を、京都国立博物館が《天橋立図》を所蔵し、それぞれ折に触れて公開されます。毛利博物館(山口県防府市)は《四季山水図巻》を所蔵し、例年秋の特別展で公開するのが通例です。山口県立美術館(山口市)も雪舟関連の作品と資料を持ち、雪舟研究の拠点となっています。《慧可断臂図》を蔵する斉年寺は通常非公開で、展覧会での出品を待つことになります。
見どころ
《秋冬山水図》の前では、まず画面中央を上下に走る崖の線を見てください。筆を強く押しつけて一気に引かれた、途中で途切れない線です。この一本が絵の背骨になっています。次に墨の濃さの段階を数えてみると、意外に少ない階調で遠近が作られていることに気づきます。《四季山水図巻》では、16メートルを右から左へたどりながら、季節の推移と視点の移動を体で追ってください。そして《天橋立図》では、逆に顔を近づけて、社寺の屋根や松の一本一本を確かめてみてください。実際に歩いて確かめた者だけが描ける精度がそこにあります。
代表作ギャラリー








作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)