『現代アートとは何か』:アートワールドの権力構造まで踏み込む、本気の現代アート論

『現代アートとは何か』:アートワールドの権力構造まで踏み込む、本気の現代アート論

なぜあの作品に数千万円の値がつくのか。マーケット、ミュージアム、批評、キュレーター、アーティスト、オーディエンス——現代アートを動かす六つのプレイヤーを解剖し、その本質に迫る決定的論考です。

はじめに:「わからない」の正体を解剖する

『現代アートとは何か』(小崎哲哉 著)は、現代アートという不可解な世界の仕組みを真正面から解説した、重量級の論考です。オークションで高騰する作品、世界中で増え続けるビエンナーレ、スーパーコレクターの影響力。アートワールドを動かす政治と経済の力学から、それでもアートにしかできないことは何かという本質論まで、一冊で見通せます。

書誌情報:どんな本か

2018年3月に河出書房新社から刊行されました。448ページと厚く、入門書というより読み通すための本です。電子書籍版も出ています。著者は本書の続編にあたる『現代アートを殺さないために』も同じ河出書房新社から出しており、二冊あわせて読むと議論の射程がさらに広がります。

著者について

著者の小崎哲哉さんは、現代美術雑誌『ART iT』の創刊に関わり、ウェブマガジン「REALTOKYO」「REALKYOTO」の発行人兼編集長を務めてきたジャーナリスト・編集者です。写真集『百年の愚行』の編集でも知られ、大学で教鞭も執っています。美術館の学芸員でも大学の美術史研究者でもなく、業界の内側を長く取材してきた立場から書かれている点が本書の性格を決めています。作品の様式や図像を分析するのではなく、「誰がどう動かしているのか」を書く本なのは、そのためです。

内容の骨格:何がどの順で書かれているか

本書はアートワールドを六つのプレイヤーに分けて論じます。マーケット、ミュージアム、クリティック(批評)、キュレーター、アーティスト、オーディエンス(観客)の六つです。この六つの章が本書の骨格で、価格はどこで決まるのか、誰が「重要な作品」と認定するのか、批評は何をしてきたのかが順に扱われます。そのうえで終盤に、著者自身が使っている「現代アート採点法」が示されます。作品の動機や意図を複数の軸で見ていくための枠組みで、抽象的な作品を前にしたときの手がかりになります。

この本ならではの点

現代アートの入門書の多くは、作品の見方や作家の紹介に紙幅を割きます。本書はそこに留まらず、値段がつく仕組み、美術館の権威が成り立つ仕組み、国際展が乱立する背景といった制度の側を正面から書きます。日本語で読める現代アート論として、この角度からここまで踏み込んだ本は多くありません。読者を「わかる人」にしようとするのではなく、「なぜわからないと感じるのか」の構造を説明してくれるところが本書の位置です。

どんな読者に向くか

予備知識はある程度あったほうが読みやすい本です。デュシャンや戦後美術の名前を一つも知らない状態から読むと、固有名詞の多さに息切れするかもしれません。展覧会や芸術祭には何度か足を運んでいて、けれど作品の値段や評価の付き方に釈然としないものを感じている、という方にちょうど合います。分量はありますが、章ごとにテーマが独立しているので、関心のある章から読み始めても筋が通ります。通読しても、辞書的に引いても使える構成です。

関連して見に行けるもの

本書の枠組みを試すなら、国内の現代美術館が手近です。東京都現代美術館(東京都江東区)、国立国際美術館(大阪市北区)、金沢21世紀美術館(金沢市)、森美術館(東京都港区)はいずれも現代美術のコレクションや企画展で知られています。国際展であれば、瀬戸内国際芸術祭、横浜トリエンナーレ、国際芸術祭「あいち」などが本書の議論をそのまま当てはめられる現場です。会場で作品を見るだけでなく、主催者は誰か、資金はどこから来ているのかを確かめてみると、本書の読み方が一段深まります。

まとめ

『現代アートとは何か』は、現代アートを腰を据えて理解したい人のための本格的な一冊です。読み通せば、アートのニュースを読む解像度が確実に上がります。

Kindle版:現代アートとは何か