『美術館の舞台裏』:元館長が明かす、展覧会ビジネスのリアルな内幕
三菱一号館美術館の初代館長を務めた高橋明也による『美術館の舞台裏 魅せる展覧会を作るには』。海外との作品交渉から保険、輸送、収支まで、展覧会という一大プロジェクトの裏側を当事者の視点で明かす新書です。
はじめに:展覧会は「巨大プロジェクト」である
『美術館の舞台裏 魅せる展覧会を作るには』(高橋明也 著)は、美術館運営の第一線に立ち続けた人物による新書です。日本の展覧会がどのように企画され、実現されているのかを、当事者ならではの具体性で解き明かします。チケットを買って会場に入るだけでは決して見えない、その手前の何年分かの仕事についての本です。
書誌情報:どんな本か
2015年12月、筑摩書房のちくま新書の一冊として刊行されました。新書判で、通勤中でも読み切れる分量です。全6章で構成され、美術館という制度のルーツ、学芸員の仕事、展覧会が形になるまでの過程、作品の保存、事故や災害へのリスク対応、そしてこれからの美術館像へと進みます。新書らしく順を追って積み上げる構成なので、頭から読むのが向いています。
著者について
著者の高橋明也さんは、30年以上にわたって学芸員として働いてきた人です。国立西洋美術館に長く勤め、パリのオルセー美術館の開設準備にも関わりました。その後、東京・丸の内の三菱一号館美術館の初代館長に就任しています。現場の学芸員として作品を扱った経験と、館長として予算や組織を動かした経験の両方を持つ書き手であることが、本書の視野の広さにつながっています。単に「学芸員はこんなに大変です」という話に終わらないのは、そのためです。
内容の骨格:何がどの順で書かれているか
前半は美術館という仕組みそのものの説明にあてられます。そもそも美術館はどこで生まれ、何のための施設として制度化されたのか。中盤で展覧会の作り方に入り、企画の立ち上げから海外の美術館との作品借用交渉、保険、輸送、展示までが順に語られます。後半では作品の保存と修復、そして災害・事故・盗難といったリスクへの備えが扱われ、最後に日本の美術館が抱える課題と将来像が示されます。裏話の羅列ではなく、美術館という装置の説明書として組み立てられています。
この本ならではの点
日本では新聞社やテレビ局が展覧会の主催に名を連ねることが多く、これは海外ではあまり見られない仕組みです。本書はこうした日本独特の展覧会の成り立ちにも踏み込みます。入場者数と収支の関係という、普段は語られにくい話題を、館長経験者が自分の言葉で書いている点が貴重です。美術館を「文化施設」としてだけでなく、人と金が動く事業として見る視点が得られます。
どんな読者に向くか
予備知識はいりません。美術史の知識がなくても、展覧会に何度か行ったことがあれば十分に読めます。とくに向くのは、美術館で働くことに関心のある学生や、学芸員資格の取得を考えている方です。仕事の実像を知るうえで、これ以上に手軽な入口はそう多くありません。展覧会をよく見る一般の鑑賞者にとっても、会場の見え方が変わる一冊です。新書なので通読向きで、辞書的に引く本ではありません。
関連して見に行けるもの
読後にまず訪ねたいのは、著者が初代館長を務めた三菱一号館美術館(東京都千代田区・丸の内)です。19世紀末のヨーロッパ美術を軸にした企画展で知られ、明治期の洋風事務所建築を復元した建物そのものも見どころになっています。著者が長く勤めた国立西洋美術館(東京都台東区・上野公園)も、常設展のコレクション形成の歴史を知ったうえで訪れると印象が変わります。次に展覧会へ行くときは、入口の挨拶パネルや図録の巻末で、主催・共催・協賛・協力・後援の一覧をぜひ読んでみてください。本書に出てきた登場人物が、そこにそろっています。
まとめ
『美術館の舞台裏』は、華やかな展覧会を支える無数の仕事に光を当てた一冊です。読み終えたとき、チケット1枚の重みが違って感じられるはずです。
Kindle版:美術館の舞台裏 ──魅せる展覧会を作るには(ちくま新書)
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