イプセン『幽霊』からの一場面:ムンクが劇場のために描いた構想画
- 作者
- エドヴァルド・ムンク
- 制作年
- 1906年
- 所蔵
- 愛知県美術館
- 所在地
- 愛知県名古屋市
エドヴァルド・ムンクが1906年に描いた《イプセン『幽霊』からの一場面》は、名古屋の愛知県美術館が所蔵するテンペラ画です。ベルリンで上演される『幽霊』のために描かれた構想画で、コレクション展の会期ごとに公開されます。
エドヴァルド・ムンクの《イプセン『幽霊』からの一場面》は、1906年に描かれた作品です。所蔵は名古屋市の愛知県美術館。独立した一枚の絵というより、ベルリンの舞台のために描かれた「構想画」であるところに、この作品のいちばんの面白さがあります。
《イプセン『幽霊』からの一場面》とは
愛知県美術館のコレクション検索によると、制作年は1906年、技法はテンペラ・画布、寸法は45.7×76.5センチ、資料番号はFO201600001000です。横に長く伸びた画面のなかに、うつむいた人物たちが並びます。
背景にあるのは演劇です。1905年にベルリンのドイツ劇場の芸術監督となったマックス・ラインハルトは、近代の心理劇を上演するために小さな劇場を新設しました。1906年秋、そのこけら落としの演目に選ばれたのが、ヘンリック・イプセンの『幽霊』です。ムンクはこの上演のために、舞台美術や衣装の色合い、演者のポーズを含めた全体の雰囲気を伝えるイメージ画を依頼されました。
ムンクは場面ごとに何枚もの構想画を描いており、本作はそのうちの一枚です。同館の解説によれば、視線を合わせずうつむく人物たちの顔を照らす黄緑色の不気味な光と、物語を支配する血の因縁を象徴するかのような赤が、この一枚の特徴とされています。『幽霊』は遺伝と過去の罪をめぐる重い戯曲ですが、その空気が筋書きの説明ではなく、色そのもので示されているのです。
どこで見られる?
- 所蔵先:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
- 所在地:愛知県名古屋市東区東桜一丁目13番2号。地下鉄栄駅から徒歩5分ほどです。
- 展示状況・観覧料:常設展示ではありません。同館のコレクション展は年に数期に分けて開かれ、会期ごとに出品作品が入れ替わります。この作品が展示されるかどうかも会期次第です。コレクション展の観覧料は一般500円、大学生300円、高校生以下は無料(20名以上の団体は一般400円、大学生240円)です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 完成作ではなく「空気」の設計図:目的は上演全体の雰囲気を伝えることでした。だからこそ細部の描写より、色と気配が優先されています。絵が舞台のために働いている姿を見られます。
- 黄緑と赤の対比:うつむく顔を照らす黄緑の光と、画面を支配する赤。どちらも自然な照明の色ではなく、戯曲の主題を色に置き換えた選択です。
- 横長の画面:45.7×76.5センチという横に伸びたかたちは、舞台という横長の空間そのものを思わせます。額縁のなかの絵でありながら、舞台の枠を見ているような感覚が生まれます。
この絵が日本にある理由
愛知県美術館は1955年開館の愛知県文化会館美術館を前身とし、1992年に愛知芸術文化センター内であらためて開館しました。1987年に定めた収集方針では20世紀の国内外の美術を柱に掲げ、グスタフ・クリムトやパブロ・ピカソ、ピエール・ボナール、マックス・エルンストら西洋近代の作家を継続して収集してきました。ムンクのこの一点も、その延長線上にあります。資料番号のFO2016という表記は、2012年度に収蔵されたゴーギャンがFO2012で始まるのと同じ形式で、収蔵年度に対応していると考えられます。
もう一つ、この作品と名古屋の相性の良さを示す事実があります。愛知芸術文化センターには美術館だけでなく愛知県芸術劇場も入っており、2020年には両者が連携して、この絵と『幽霊』をめぐる上演企画が行われました。舞台のために描かれた絵が、日本の劇場と美術館をつなぎ直したことになります。
まとめ
《イプセン『幽霊』からの一場面》は、名古屋の愛知県美術館で見られるムンクのテンペラ画です。常設展示ではなく、コレクション展の会期に合わせて登場します。ベルリンの小劇場のために描かれた構想画という成り立ちを頭に入れて向き合うと、うつむく人物と不穏な色の意味が立ち上がってきます。訪ねる前に、公式サイトで会期と出品作品を確かめておきましょう。



