受胎告知:レオナルド20歳前後の現存最初期作

受胎告知:レオナルド20歳前後の現存最初期作

名画
作者
レオナルド・ダ・ヴィンチ
制作年
1472年頃
所蔵
ウフィツィ美術館
所在地
イタリア・フィレンツェ

レオナルド・ダ・ヴィンチが1472年頃に描いた横222センチの横長の板絵で、ウフィツィ美術館A35室で見られます。草地に落ちる天使の影、猛禽を思わせる翼、青くかすむ遠景の港。二十歳前後の画家がすでに自然観察と光の表現に打ち込んでいたことが伝わる、現存最初期の一枚です。

レオナルド・ダ・ヴィンチが1472年ごろに描いた「受胎告知」は、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵する、彼の現存作品のなかでも最初期にあたる一枚です。横222センチの横長の画面で、ひざまずく大天使ガブリエルと、書見台の前に座る聖母マリアが向かい合います。二十歳前後の画家が、すでに光と空気の描写に強い関心を寄せていたことが伝わってきます。

「受胎告知」とは

ウフィツィ美術館の公式情報では、制作は1472年ごろ、板に油彩、寸法は90×222センチ、所蔵番号は1890年目録1618番です。当時のレオナルドはアンドレア・デル・ヴェロッキオの工房で修業しており、本作もその時期の仕事と考えられています。1867年にフィレンツェの教会から移されてウフィツィ美術館に入りました。舞台となるのはルネサンス期の邸宅の庭で、聖書の場面が同時代の風景として置き換えられています。マリアの背後に広がる石造りの建物と、その先に開ける港の眺めが、物語に奥行きを与えています。横222センチという細長い画面は、もともと壁の高い位置や祭壇まわりに置かれることを想定していたとみられ、正面から見上げるように鑑賞すると各要素の配置が落ち着いて見えてきます。マリアの前に置かれた大理石の書見台は、渦巻きや葉の装飾が彫刻のように緻密で、若いレオナルドが立体物の観察に費やした時間を物語っています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ウフィツィ美術館/所蔵番号 1890年目録1618番
  • 都市:イタリア・フィレンツェ
  • 展示室:A35室。公式サイトの作品ページで案内されている展示室です。
  • 予約の要否:入館にはチケットが必要です。行列が長くなりやすい美術館なので、公式サイトでの日時指定予約がすすめられています。

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 草の上に落ちる天使の影:ガブリエルはひざまずき、その体は草地にはっきりと影を落とします。宗教画の象徴的な場面を、光のある現実の空間として描こうとした姿勢が読み取れます。
  • 猛禽のような翼:天使の翼は、装飾的な鳥の羽としてではなく、実際の猛禽の翼を観察したような形で描かれています。自然観察を出発点にするレオナルドらしさが、早くも表れています。
  • 遠景と空気の表現:背景の港や山並みは、遠ざかるほど青くかすんでいきます。空気遠近法と光の効果によって、手前の人物から遠くの水平線までが一つの大気のなかに収まっています。空と海の境目がぼやけていく処理は、のちの作品にもつながる関心です。

描かれた背景

15世紀のフィレンツェでは、受胎告知は最もよく描かれた主題の一つでした。レオナルドはその定型を受け継ぎながら、庭を囲う塀(マリアの純潔を示す「閉ざされた園」)や書見台といったモチーフを丁寧に組み立てています。一方で、マリアの右腕がやや長く見えるなど、遠近や視覚の実験と結びつけて論じられる箇所もあります。ウフィツィ美術館は、これをレオナルドの光学的な関心の反映とみる見方を紹介しています。伝統的な図像の枠組みのなかで、若い画家が観察に基づく自分の方法を探していた時期の作品だと言えます。ヴェロッキオの工房は、絵画だけでなく彫刻や金工も手がける総合的な仕事場でした。書見台の量感や布のひだの表現に彫刻的な感覚がにじむのは、その環境と無関係ではないでしょう。のちに「最後の晩餐」や「モナ・リザ」を生む画家が、どこから出発したのかを確かめられる一枚です。

まとめ

「受胎告知」は、レオナルドという画家の出発点を示す作品です。ウフィツィ美術館のA35室では、横長の画面を正面からじっくり眺められ、天使の翼のつくりや遠景のかすみを追うことができます。フィレンツェで彼の歩みをたどるなら、最初に立ち止まりたい一枚です。ウフィツィ美術館は入館者が多く、人気作の前は混み合います。開館直後や夕方など、比較的落ち着いた時間帯を選ぶと、細部までゆっくり確かめられます。