種をまく人:ミレーが大地に刻んだ農夫の力強い一歩

種をまく人:ミレーが大地に刻んだ農夫の力強い一歩

名画
作者
ジャン=フランソワ・ミレー
制作年
1850年
所蔵
山梨県立美術館
所在地
山梨県甲府市

ミレーが1850年に描いた《種をまく人》は、山梨県立美術館(甲府市)の所蔵品です。1978年の開館時に収蔵され、同館が「ミレーの美術館」と呼ばれる出発点になりました。ボストン美術館にもよく似た1点があり、その関係もあわせて紹介します。

薄暗い畑の斜面を、大股で下りながら種をまく農夫。ジャン=フランソワ・ミレーが1850年に描いた《種をまく人》は、山梨県甲府市の山梨県立美術館が所蔵する代表作です。同館が「ミレーの美術館」と呼ばれるきっかけになった一点で、ミレー館で公開されています。

《種をまく人》とは

制作年は1850年、技法は油彩・麻布、大きさは99.7×80.0センチメートルです。ミレーは1849年にパリを離れてバルビゾン村へ移り住みました。本作は、その村に定住してから初めて仕上げた大作にあたり、ミレーの画業を代表する作品とされています。

この主題には、山梨県立美術館が所蔵する1点と、アメリカのボストン美術館が所蔵する1点の、よく似た2点が知られています。構図はほぼ共通し、1850年のサロン(官展)に出品されて称賛と批判の両方を呼びましたが、出品されたのがどちらの1点だったのかについては、研究者の見解が分かれています。先に描かれたのがボストン美術館の作品で、ミレーがより力強い表現を求めて仕上げたのが山梨県立美術館の作品だとする説が有力とされます。ボストン美術館の作品は輪郭がはっきりしているのに対し、山梨県立美術館の作品は筆のあとが激しく、農夫の動きがより強く感じられる画面だと指摘されています。2点を見比べる機会は多くありませんが、そういう関係にある双子のような絵だと知っておくと、目の前の一枚の見え方が変わってきます。

どこで見られる?

  • 所蔵先:山梨県立美術館
  • 所在地:山梨県甲府市貢川1-4-27(芸術の森公園内)
  • 展示状況:ミレーやバルビゾン派を紹介する「ミレー館」のコレクション展で公開されています。ミレー館は第1室が同館のミレーコレクション、第2室がバルビゾン派の画家という構成です。コレクション展は年4回展示替えが行われ、他館への貸出もあるため、本作が必ず出ているとは限りません
  • 観覧料:コレクション展は一般520円、大学生220円、高校生以下は無料です。65歳以上の方も無料になります
  • 開館時間:午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)などです

展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 踏み出した足:斜面を下る大きな一歩と、種をまく右腕の動きがつながり、画面全体が動き出しているように見えます
  • 顔が見えないこと:帽子のかげで農夫の表情はほとんどわかりません。個人ではなく、働く人そのものを描こうとした姿勢が表れています
  • 背景の夕景:丘の上には牛と鋤を使う人影と、暮れかけた空が広がります。飛び交う鳥は、まかれた種をついばみに来たものです

この絵が日本にある理由

山梨県立美術館は1978年に開館しました。その開館にあたって収蔵された最初期の作品が、この《種をまく人》です。緑ゆたかな県の風土を象徴するコレクションとして、以後もミレーとバルビゾン派の作品を集め続け、現在では《落ち穂拾い、夏》などを含む油彩画12点をはじめ、パステル画、版画、素描などおよそ70点のミレー作品を所蔵するにいたりました。

その結果、山梨県立美術館は開館以来「ミレーの美術館」として広く親しまれてきました。県立の美術館が開館時に世界的な名画を選び、その1点を軸にコレクションを育てていった例として、日本の美術館史のなかでも際立った存在です。

館の所蔵品は現在およそ1万点にのぼり、コレクション展示室では年4回、季節に合わせて展示替えをしながら公開されています。コレクション展の展示室は、ミレーやコロー、ルソーらバルビゾン派を紹介する「ミレー館」、山梨ゆかりの作家や日本近現代の作家を扱う「テーマ展示室」、版画家・萩原英雄の作品と蒐集品を紹介する「萩原英雄記念室」の3室で構成されて。ミレー館では展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」も導入されており、作品の情報を手元で確かめながら鑑賞できます。

まとめ

《種をまく人》は、ミレーがバルビゾン定住後に初めて仕上げた大作で、山梨県立美術館の看板作品です。ボストン美術館にもよく似た1点があり、どちらがサロン出品作かは今も議論が続いています。甲府の芸術の森公園を訪ね、ミレー館でこの一歩を実際に見上げてみてください。