町立久万美術館:実業家の蒐集眼が光る、四国山地の小さな美の宝庫
久万高原町出身の実業家・井部栄治が蒐集した日本画・洋画・陶磁器コレクションをもとに開館。村山槐多や萬鉄五郎ら近代洋画の優品を、四国山地の静かな環境で鑑賞できる。
はじめに:四国山地の町が守る、選び抜かれた美術コレクション
町立久万美術館は、愛媛県久万高原町出身の実業家・井部栄治が長年にわたり蒐集した美術品の寄贈を受け、1989年(平成元年)に開館した町立の美術館です。松山市街から国道33号を南へ、三坂峠を越えて山あいへ分け入った高原の町にあり、訪れた人はまず「こんな山の中に」と驚かされます。所蔵品は約750点。そのうち常時70点ほどを選び抜いて展示する小さな規模ですが、日本画・書画・陶磁器に加え、村山槐多や萬鉄五郎といった日本近代洋画を代表する画家たちの油彩を含み、点数の少なさを質の高さで補って余りあるコレクションとして知られています。
時代背景:郷里への恩返しとして結実した、個人コレクション
井部栄治は久万の地で林業を営みながら成功を収め、その過程で日本画や近代洋画、陶磁器を蒐集する審美眼を磨いていきました。個人が生涯をかけて集めた美術品は、往々にして没後に散逸してしまうものですが、井部は晩年、その集大成となる319点を郷里へ寄贈するという道を選びます。これを母体として、四国山地の小さな町に、都市部の美術館にも引けを取らない密度の鑑賞空間が誕生しました。作品を「持つ」ことではなく「遺す」ことを選んだ一人のコレクターの判断が、そのまま美術館のかたちになっている点に、この館の性格がよく表れています。
3つの見どころ
日本近代洋画の系譜
高橋由一、浅井忠、黒田清輝という日本洋画の草創期を担った画家から、萬鉄五郎、村山槐多、長谷川利行へ。村山槐多は22歳で世を去った夭折の画家で、ガランスと呼ばれる深い赤を多用した激しい筆致で知られ、萬鉄五郎はフォーヴィスムやキュビスムをいち早く消化した先駆者でした。日本近代洋画の流れを、山あいの小さな美術館でたどれるのは貴重な体験です。
伊予ゆかりの書画と古砥部焼
三輪田米山や吉田蔵沢など伊予にゆかりの深い書画、地元・砥部で焼かれた古砥部焼の陶磁器も収蔵の柱です。ジャンルを横断して並ぶ作品からは、流派や時代で区切らずに「良いものを良い」と見抜いた蒐集家の眼差しが、一貫して感じられます。
久万杉を使った木の建物
展示室の大黒柱には地元・久万杉の磨き丸太が用いられ、来館者は靴を脱いで館内をめぐります。美術館としては珍しい木の空間と、併設された山草園の緑が、高原の澄んだ空気とよく響き合います。
施設情報・アクセス
住所: 〒791-1205 愛媛県上浮穴郡久万高原町菅生2番耕地1442-7
アクセス: 松山市内より車で約1時間。JR四国バス「久万中学校前」下車、徒歩約10分
開館時間: 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日: 月曜日、祝日の翌日(祝日・日曜と重なる場合は開館)、展示替え期間
観覧料: コレクション展 一般500円、高大生400円、小中生300円(企画展は別途)
