『ダ・ヴィンチ・コード』:《モナ・リザ》《最後の晩餐》に暗号を読む、美術ミステリーの代表作
ルーヴル美術館の館長が館内で殺害された。象徴学者ラングドンが《モナ・リザ》や《最後の晩餐》に隠された符号をたどる一夜を描く美術ミステリーです。名画の細部をここまで凝視させてくれる読み物はそうありません。世界的ベストセラーの代表作。
『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン 著)は、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》や《最後の晩餐》をめぐる美術ミステリーです。物語はルーヴル美術館の館長ジャック・ソニエールが館内で殺害される場面から始まります。呼び出されたハーヴァード大学の宗教象徴学者ロバート・ラングドンと暗号解読官ソフィー・ヌヴーが、遺体が残した奇妙な符号をたどって、一夜のうちにパリからロンドンへと駆けていきます。
書誌
原著は2003年にアメリカで刊行されました。日本語版は越前敏弥さんの訳で2004年に角川書店から出て、2006年に角川文庫(上・中・下の三分冊)に入っています。2006年にはロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演で映画化もされました。
著者について
ダン・ブラウンは1964年生まれのアメリカの小説家です。ロバート・ラングドンを主人公とするシリーズは本作が二作目で、一作目は原著2000年刊の『天使と悪魔』。その後も『ロスト・シンボル』『インフェルノ』『オリジン』と続きます。宗教、象徴学、秘密結社、そして実在する都市と建築という素材の組み合わせは全作に共通していて、本作でその型が完成しました。
登場人物は架空、舞台は実在
ここは読む前に押さえておきたい点です。ラングドン、ソフィー、館長ソニエール、リー・ティービングといった登場人物はいずれも架空で、モデルとされる実在の人物がいるわけではありません。一方で、ルーヴル美術館とガラスのピラミッド、パリのサン・シュルピス教会、スコットランドのロスリン礼拝堂といった舞台は実在します。テンプル騎士団も歴史上実在した組織です。実在の場所に架空の人物と架空の解釈を置くという配合が、本作の読み心地を作っています。
この本の3つの見どころ(読みどころ)
1. 名画を「読む」楽しさ
《最後の晩餐》の人物配置、《モナ・リザ》という名の並べ替え、《岩窟の聖母》の手の向き。作中の解釈はあくまで小説の仕掛けですが、絵の細部をここまで凝視させてくれる読み物はそうありません。読み終えたあと、美術館で一枚の絵の前に立つ時間が確実に長くなります。
2. 章が短く、途中で止まれない構成
ほとんどの章が数ページで切り替わり、そのたびに新しい謎が置かれていきます。アナグラム、フィボナッチ数列、クリプテックス。読者が自力で解けるくらいの難度に調整されているので、謎解きに参加している感覚が最後まで途切れません。世界で8000万部を超えたと言われる牽引力の正体は、この設計にあります。
3. 「どこまでが史実か」を考える面白さ
シオン修道会や聖杯伝説をめぐる本作の主張には、歴史学の側からも教会の側からも強い反論が出され、刊行当時は各国で論争になりました。だからこそ、読んだあとに事実関係を自分で調べ直す楽しみが残ります。あくまでフィクションとして受け取るのが、この本のいちばん良い読み方です。
どんな読者に向くか
美術の予備知識はまったくいりません。むしろ美術史を先に知っている人ほど、作中の解釈に引っかかって読みにくくなるかもしれません。文庫三冊分と長いものの、短い章が連続するため通勤時間の細切れ読書に強く、拾い読みには向かない代わりに一気読みには最適です。美術館通いの入り口として、あるいは西洋美術に苦手意識のある家族や友人へ渡す一冊としても働きます。
関連して見に行けるもの
作中の中心作品は日本にありませんが、レオナルドの周辺は国内でも追えます。国立西洋美術館(東京・上野)の常設展にはイタリア・ルネサンスから宗教画までが並び、聖書の図像に慣れる練習に向きます。宗教主題の西洋絵画をまとめて見るなら、エル・グレコの《受胎告知》を持つ大原美術館(岡山・倉敷)も好相性です。《最後の晩餐》の実物はミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会にあり、鑑賞は事前予約制です。
まとめ
美術と歴史とスリラーを一本に束ねた、いまも色あせないエンターテインメントです。同じラングドンが活躍する『天使と悪魔』も読めば、ローマやパリの美術がぐっと身近になります。
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