星月夜:療養院の窓から見た、渦巻く夜空

星月夜:療養院の窓から見た、渦巻く夜空

名画
作者
フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年
1889年6月
所蔵
ニューヨーク近代美術館(MoMA)
所在地
アメリカ・ニューヨーク

ゴッホが1889年6月、南仏サン=レミの療養院で描いた油彩。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の5階、コレクション展示室で常時公開されています。実際の夜景と記憶と想像が混ざり合った一枚です。

《星月夜》は、フィンセント・ファン・ゴッホが1889年6月、南フランスのサン=レミの療養院で描いた油彩画です。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵し、5階のコレクション展示室で公開されています。渦を巻く空と燃え上がる糸杉は、ゴッホの代表作というだけでなく、20世紀絵画のイメージそのものになりました。

星月夜とは

MoMAの記録では、制作地はサン=レミ、制作年は1889年6月、技法はカンヴァスに油彩、寸法は73.7×92.1センチです。リリー・P・ブリス遺贈による交換で1941年に同館に入りました。

ゴッホは1889年5月から翌年5月まで、サン=ポール=ド=モーゾール療養院に自ら入院しています。この絵は、そこで暮らした部屋の窓からの眺めがもとになっています。ただし窓から見えたはずの光景をそのまま写したものではありません。手前の糸杉は実景より大きく、左手の村と教会の尖塔は北方オランダの記憶に近い形をしています。見たものと、覚えているものと、想像したものが一枚の画面で組み合わされているのです。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art、MoMA)
  • 都市:アメリカ・ニューヨーク(11 West 53rd Street)
  • 展示室:5階(Floor 5)のコレクション展示室、ギャラリー501「アルフレッド・H・バー・ジュニア・ギャラリー」。MoMAでは珍しく、ほぼ常に展示されている作品の一つです。ただし館内の展示替えで部屋が変わることがあります。
  • 予約:入館は日時指定のオンライン予約が推奨されています。混雑する作品なので、開館直後か夕方が比較的落ち着いています。

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 絵具の厚み:空の渦も星の光輪も、絵具を厚く盛り上げて筆やパレットナイフの跡をそのまま残しています。正面からでは平たく見えますが、斜めから見ると画面に物理的な起伏があることがわかります。
  • 糸杉の垂直:手前の糸杉は画面の下端から上端近くまで突き抜け、地上と空をつなぐ柱のように立っています。空の水平方向のうねりに対して、唯一の強い垂直線です。
  • 静かな村:激しい空の下で、村だけが直線的で穏やかに描かれています。窓に灯る小さな黄色い光が、動と静の対比を成立させています。

描かれた背景

1888年末、アルルでゴーガンとの共同生活が破綻し、ゴッホは深刻な発作に見舞われます。翌年、自らの意思でサン=レミの療養院に入りました。ここでの一年は、体調の波に苦しみながらも制作量が非常に多かった時期にあたります。オリーヴ畑、麦畑、糸杉、そしてこの夜空が、次々に描かれました。

ゴッホは弟テオへの手紙で、星のある夜を描きたいという願いを繰り返し書いています。夜の風景を屋外で描く試みはアルル時代から続いており、《星月夜》はその探求の到達点にあたる一枚です。生前にはほとんど評価されませんでしたが、20世紀に入って再発見され、いまでは美術館が最も貸し出しに慎重な作品の一つになっています。

興味深いのは、ゴッホ本人がこの絵をあまり高く評価していなかったことです。手紙の中では、想像に頼りすぎた失敗作という趣旨の言い方をしています。彼が目指していたのは、目の前の自然を写生することでした。にもかかわらず記憶と感情が入り込んだこの一枚が、結果として最も広く知られる作品になったのは皮肉と言えます。

糸杉という選択にも意味があります。南フランスで墓地に植えられる木であり、ゴッホは手紙の中でその形の美しさに繰り返し言及していました。夜空の渦、星々、月、そして地上から天へ伸びる糸杉。特定の宗教を示す記号は一つもないのに、多くの人がこの絵に精神的なものを見てきた理由がここにあります。

まとめ

ニューヨーク近代美術館の5階、ギャラリー501。海外の名画のなかでは比較的アクセスしやすく、同じフロアでピカソやマティスの代表作と一緒に見られるのが大きな魅力です。展示室は変更されることがあるので、来館日の配置は公式サイトで確認してください。