パオロ・ヴェロネーゼ:宴の画家、銀色の輝きでヴェネツィアの栄華を描いた色彩の貴公子

パオロ・ヴェロネーゼ:宴の画家、銀色の輝きでヴェネツィアの栄華を描いた色彩の貴公子

画家

130人がひしめく「カナの婚礼」、異端審問と渡り合った「レヴィ家の饗宴」。ヴェロネーゼの豪奢な宴会画は、ヴェネツィア共和国の繁栄そのものを永遠に封じ込めています。

はじめに:ヴェネツィアの栄華を描く係

パオロ・ヴェロネーゼ(1528-1588)は、ヴェローナ出身でヴェネツィアを舞台に活躍した画家です。ティツィアーノの色彩、ティントレットの動感に対し、ヴェロネーゼは銀色に輝く光と、大理石の建築を背景にした豪奢な群像で、海洋都市の絶頂期を寿ぎました。この三人が「ヴェネツィア派三巨匠」と呼ばれます。

生涯:石工の子から、共和国の看板画家へ

本名はパオロ・カリアーリ。1528年、ヴェローナの石工の家に生まれました。「ヴェロネーゼ」は「ヴェローナの人」という意味の通称です。父の仕事場で石と建築に親しんだ経験は、のちの画面に立ち並ぶ壮麗な大理石建築へと結実します。地元の画家アントニオ・バディーレに学び(のちにその娘と結婚)、20代半ばでヴェネツィアへ進出。1553年にドゥカーレ宮殿の天井画を任され、続くサン・セバスティアーノ聖堂の装飾(1555年頃から)で一気に名声を確立しました。

1560年前後には建築家パラーディオ設計のヴィラ・バルバロ(マゼール)に、だまし絵を駆使したフレスコ画を制作。1562年から翌年にかけては、サン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院の食堂のために「カナの婚礼」を描き上げます。1573年には異端審問所に召喚される事件を経験しますが、その後もドゥカーレ宮殿の大装飾事業を担い、共和国を象徴する画家であり続けました。1588年、ヴェネツィアで60歳で没し、自身が装飾したサン・セバスティアーノ聖堂に葬られています。

絶対に知っておきたい!3つの見どころ

1.「カナの婚礼」——ルーヴル最大の絵画

幅約9.9メートル、高さ約6.7メートル。130人前後の人物がひしめく大画面は、キリストが水を葡萄酒に変えた奇跡の場面を、16世紀ヴェネツィアの大宴会として描きます。画面手前の楽師たちはティツィアーノやヴェロネーゼ自身の姿だと伝えられてきました。「モナ・リザ」の真向かいで、その何十倍もの面積を誇る祝祭です。

2.「レヴィ家の饗宴」——異端審問との対決

「最後の晩餐」として描いた画面に道化や酔漢、犬まで描き込んだヴェロネーゼは、1573年、異端審問所に召喚されます。彼は「画家には詩人と同じ空想の自由がある」という趣旨の抗弁を行い、絵を描き直す代わりにタイトルを「レヴィ家の饗宴」へ変更することで切り抜けました。表現の自由をめぐる美術史の名場面です。現在はヴェネツィアのアカデミア美術館にあります。

3.銀色の光——ヴェロネーゼの色

ティツィアーノの金色を帯びた暖色に対し、ヴェロネーゼは真珠色・銀色の涼やかな光を選びました。影にも黒を使わず、青や緑を溶かして透明感を保ちます。緑顔料の呼び名「ヴェロネーゼ・グリーン」に名を残した色彩感覚は、18世紀のティエポロを経て、ドラクロワや印象派にまで影響しました。

そのほかの代表作

  • ヴィラ・バルバロのフレスコ(1560-61年頃、マゼール):偽の扉から人が入ってくるだまし絵など、遊び心に満ちた壁画群。
  • エウロペの略奪(1580年頃、ドゥカーレ宮殿):神話画の傑作で、豊麗な色彩の見本のような一点です。

同時代の画家との関係

先輩ティツィアーノは早くからヴェロネーゼを評価し、コンクールで彼を推したと伝えられます。同世代のティントレットとは、ドゥカーレ宮殿の仕事などで競合関係にありました。荒々しい筆と極端な短縮法で見る者を揺さぶるティントレットに対し、ヴェロネーゼは秩序立った構図と明るい色で応じます。背景の建築は、同時代にヴェネト地方で活動した建築家アンドレア・パラーディオの様式と響き合っており、両者は実際にヴィラ・バルバロで共同しました。

日本で見られるか

  • 国立西洋美術館(東京・上野):「聖カタリナの神秘の結婚」(1547年頃)を所蔵。ヴェローナ時代の初期作で、1994年に購入されました。日本で見られるヴェロネーゼの真筆として最重要の一点です。
  • 東京富士美術館(東京・八王子):「少年と騎士見習」をヴェロネーゼと工房の作として所蔵しています。

ただし、彼の本領である巨大な宴会画は移動が難しく、実物はヴェネツィアとパリに集中しています。

見どころ

端役から見るのがヴェロネーゼの楽しみ方です。大宴会画では主役より、犬、猫、小人、給仕、楽師たち。細部の人間喜劇を拾うほど絵が生きてきます。次に建築を味わってください。列柱とバルコニーは絵の中に劇場を作るための装置で、人物の並びを整理しつつ、空を高く見せています。そして影の色に注目を。ヴェロネーゼの影は黒くありません。青や緑がかった影が、画面全体をひんやりと明るく保っています。

まとめ

ヴェロネーゼは、都市の繁栄を「祝祭の絵画」に変えた巨匠です。豪華なものを豪華に描く堂々たる力を、大画面の前で浴びてください。

代表作ギャラリー

カナの婚礼
カナの婚礼1563年ルーヴル美術館
レヴィ家の饗宴
レヴィ家の饗宴1573年アカデミア美術館(ヴェネツィア)
ヴィーナスとマルス
ヴィーナスとマルス1570年代メトロポリタン美術館
ヴィーナスとアドニス (ヴェロネーゼ、マドリード)
ヴィーナスとアドニス (ヴェロネーゼ、マドリード)1580年Prado hall 026
聖カタリナの神秘の結婚 (ヴェロネーゼ、アカデミア美術館)
聖カタリナの神秘の結婚 (ヴェロネーゼ、アカデミア美術館)1575年アカデミア美術館
美徳と悪徳の間の選択
美徳と悪徳の間の選択1565年フリック・コレクション
レパントの海戦の寓意
レパントの海戦の寓意1571年アカデミア美術館
キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナス
キューピッドによって結ばれるマルスとヴィーナス1570年メトロポリタン美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)