ロベール・ドローネー:エッフェル塔と色彩の円盤、「オルフィスム」の光の画家
砕けながら天へ伸びる赤いエッフェル塔、虹色の同心円。ドローネーはキュビスムに色彩と光を取り戻し、詩人が「オルフィスム」と名付けた抽象絵画の先駆けとなりました。
はじめに:色彩でキュビスムを解放する
ロベール・ドローネー(1885-1941)は、フランスの画家です。ピカソらのキュビスムが褐色の分析に向かう中、ドローネーは色彩の対比こそが形と運動とリズムを生むと考え、光そのものを主題とする絵画へ進みました。詩人アポリネールはこの色彩の音楽を、竪琴の神オルフェウスにちなんで「オルフィスム」と命名しました。
生涯:舞台装飾の見習いから抽象の先駆者へ
パリの裕福な家に生まれましたが両親が離婚し、伯母夫婦のもとで育ちました。美術学校には進まず、17歳で舞台装飾の工房に入ります。大きな面を大胆な色で塗る装飾の経験が、のちの色面構成の下地になりました。新印象派の点描とセザンヌを独学で消化し、1909年からエッフェル塔の連作に取りかかります。
1910年、ウクライナ出身の画家ソニア・テルクと結婚。二人は生涯にわたる制作上の伴走者となりました。1911年にはカンディンスキーの招きでミュンヘンの「青騎士」第1回展に参加し、翌年にはクレーとマッケがパリのアトリエを訪ねてきます。ドイツ表現主義への影響はここから広がりました。第一次大戦中はスペインとポルトガルに滞在。1937年のパリ万国博覧会では鉄道館と航空館に巨大な壁画を制作しています。第二次大戦下、癌を得て南仏へ疎開し、1941年にモンペリエで没しました。
絶対に知っておきたい!3つの見どころ
1. エッフェル塔連作——踊る鉄塔
複数の視点から同時に見たエッフェル塔が、赤く燃えながら砕け、伸び上がる連作は、新時代の象徴を新しい絵画言語で讃える宣言でした。塔は静止せず、都市のエネルギーそのもののように脈動します。ニューヨークのグッゲンハイム美術館やシカゴ美術館などに主要作があります。
2. 「同時の窓」——ガラス越しの色彩
1912年の「窓」連作で、ドローネーは窓辺の光景をプリズムのような色面に分解し、対象の再現から色彩の構成へ踏み出します。パウル・クレーやマッケらドイツの画家たちに巨大な影響を与えました。
3. 円盤・リズム連作——純粋な色の回転
1913年の「太陽と月の同時的円盤」以降、同心円が回転するような画面は、音楽のように無対象の絵画になります。妻ソニア・ドローネーとともに、絵画・ファッション・デザインを横断した色彩の実験は、現代のグラフィックにまで谺しています。
画風の特徴
ドローネーの理論的な支柱は、19世紀の化学者シュヴルールが唱えた「色彩の同時対比」です。ある色は隣に置かれた色によって見え方が変わる——この現象を、彼は形を作る原理そのものに引き上げました。だからドローネーの絵に陰影はほとんどありません。奥行きも重さも、明暗ではなく色の関係だけで作られます。「同時的(シミュルタネ)」という言葉が彼の作品名に繰り返し現れるのは、そのためです。
代表作
- エッフェル塔(1911年/グッゲンハイム美術館、ニューヨーク)
- 街の窓/同時に開かれた窓(1912年頃/テート、ロンドンほか)
- 太陽と月の同時的円盤(1913年/ニューヨーク近代美術館ほか)
- カーディフ・チーム(1912-13年/パリ市立近代美術館ほか)——ラグビー、飛行機、広告塔が同居する近代賛歌。
- リズム、生の喜び(1930年/ポンピドゥー・センター、パリ)
日本で見られるか
国内に主要作品は多くありません。愛知県美術館とポーラ美術館(箱根)がドローネー作品を所蔵していますが、まとまった作例に触れるには来日展を待つことになります。東京国立近代美術館は1979年に「ドローネー展:ロベールとソニア」を開催し、日本で初めて夫妻の全体像を紹介しました。キュビスムやポンピドゥー・センターのコレクション展にはしばしば出品されます。
初心者が楽しむための鑑賞のコツ
色の「隣り合わせ」を見る:赤の隣の緑、橙の隣の青。補色の衝突が生む振動こそドローネーのエンジンです。
塔の高さを体感する:エッフェル塔連作は見上げる視点と見下ろす視点が同居します。首を動かしながら見ると塔が動き出します。
ソニアの仕事と並べる:ソニア・ドローネーは同じ色彩理論を布や装丁、車体にまで広げました。絵画の外へ出た色彩を見ると、二人の狙いがよくわかります。
まとめ
ドローネーは、「色は形の従者ではない」と宣言した画家です。抽象絵画がなぜ生まれたのか、その一つの答えがこの光の円盤にあります。
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作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)

