ジャクソン・ポロック:キャンバスを床に敷き、体全体でペンキを飛び散らせたアクション・ペインティングのアメリカン・ヒーロー
床に敷いた巨大キャンバスに、筆を触れずに缶から直接絵の具を滴らせる「ポーリング(滴下法)」を開発したポロック。大原美術館の「無題」でも知られ、全米を熱狂させながらも破滅的な事故で散ったカリスマの一生。
はじめに:描くことの「行為(アクション)」そのものを芸術へ変えた革命
ジャクソン・ポロック(1912-1956)は、第二次世界大戦後、美術の中心地をパリからニューヨークへと奪い取った「抽象表現主義(オールオーバー絵画)」の絶対的リーダーです。彼はイーゼル(画架)に立てたキャンバスに筆で絵を描くという西洋絵画の伝統を拒絶し、床に巨大なキャンバスを敷き、その周囲を踊るように動き回りながら、液状のペンキや絵の具を棒や缶から直接ポタポタと滴らせる「ドリップ(ポーリング=滴下法)」という技法を生み出しました。彼の絵には「上も下もなく、中心もなく、筆のタッチもない」。そこにあるのは、画家の肉体の激しい動きの痕跡(アクション)そのものです。
生涯:アルコール依存症、大成功、そして飲酒運転での悲劇的な自動車事故
アメリカ・ワイオミング州の開拓地に生まれたポロックは、野生的な性格でしたが、深刻なアルコール依存症と精神的な不安定さに終生苦しみました。彼の才能を早くから信じた画家の妻リー・クラズナーや、美術コレクターのペギー・グッゲンハイムの絶対的な支援により、ニューヨーク近郊の農場の納屋にアトリエを構え、傑作群を制作。ライフ誌の特集で「彼はアメリカ最大の現存画家か?」と紹介され、一躍時代の寵児となりました。しかし、スターダムの重圧から再び酒に溺れ、1956年の深夜、飲酒運転によるスピード事故で、44歳の若さで同乗者と共に死亡。その破滅的な生き様は、アメリカのアート神話となりました。
3つの代表作解説
- 秋のリズム:No.30(メトロポリタン美術館): ポロックのドリップ・ペインティングの頂点を示す超大作。黒、茶色、白のペンキが複雑に絡み合う迷宮のような線。そこには激しいカオスと、奇跡的な網の目のリズムが宿り、まるで自然の秋の森の生命力を想起させます。
- インディアンレッドの地の壁画(テヘラン現代美術館など): ポロックの力強い色面と滴下のコンビネーション。ポロックの絵の具の厚みと、キャンバスの物質としての力強さがダイレクトに迫る名作。
- 無題(大原美術館蔵): 日本にあるポロックの極めて貴重な初期・中期の重要作。抽象的なドリップの背後に、神話的なモチーフや荒々しいシンボルが潜む、ポロックの芸術の進化を辿る傑作。
