アンリ・ルソー:税関職員から独学でアートの頂点へ、夢と野生のジャングルを描いた素朴派の伝説
美術教育を受けず、パリの税関の仕事をしながら日曜画家として描き続けたル Rousseau(ルソー)。遠近法を無視したフラットで不思議な空間と、夢の中に現れる熱帯雨林を描き、ピカソを驚愕させた一生。
はじめに:アカデミーのルールを無視し、純粋なファンタジーの楽園を描く
アンリ・ルソー(1844-1910)は、「素朴派(ナイーブ・アート)」を代表する最大の画家です。彼は絵画の専門的な教育を一切受けていませんでした。そのため、ルソーの描く人物は平らで、遠近法はでたらめで、現実の比率とはかけ離れています。しかし、そのアマチュア的な「下手さ」は、逆にそれまでの洗練されすぎた西洋絵画にはなかった、剥き出しの純粋さ、幻想的でミステリアスな物語性、そして夢の風景のような圧倒的なオリジナリティとなって、ピカソやアポリネールといった前衛アーティストたちを熱狂させました。
生涯:パリの税関吏「ル・ドゥアニエ」、そしてピカソが開いた伝説の夜会
ルソーはパリの税関の職員(実際には入市税の徴収係)として49歳まで働き、休日に絵を描く「日曜画家」でした。そのため、周囲からは「ル・ドゥアニエ(税関吏)」と親しみを込めて、時にはからかいを込めて呼ばれました。サロン・デ・ザンデパンダンに毎年出品し、批評家や大衆から「子どもの落書きだ」と激しい嘲笑を浴び続けましたが、本人は「自分は偉大なアカデミー画家だ」と本気で信じて疑いませんでした。晩年、彼の純粋な才能を見抜いたパブロ・ピカソが、彼のために「ルソーを称える夜会」を開催。現代アートの巨匠たちに囲まれて祝福されながら、その生涯を閉じました。
3つの代表作解説
- 眠るジプシー女(ニューヨーク近代美術館): 砂漠の中でマンドリンの横で眠る女性と、それを静かに見つめる一頭のライオン。月明かりのなかに漂う、極限の静寂と超現実的な夢の世界。
- 夢(ニューヨーク近代美術館): ルソー最晩年の傑作。パリの室内にいるはずの裸婦のソファが、なぜか密林のジャングル(熱帯雨林)のど真ん中に置かれ、野生の動物たちや怪しげな蛇使いに囲まれている、ルソーの空想世界の決定版。
- 蛇使い(オルセー美術館): 月明かりが川面を照らすジャングル。フルートを奏でる影のような女性と、その音色に引き寄せられて木々から這い出る無数の蛇たち。神秘的でエキゾチックな名作。