フリーダ・カーロ:バスの大事故から生まれた痛みを、鮮烈な自画像で描き続けたメキシコの魂
18歳での大事故による生涯続く激痛と、夫ディエゴ・リベラとの愛憎を、55点もの自画像に刻み込んだフリーダ・カーロ。メキシコの民族衣装をまとい、痛みと生命力を同時に描き出した唯一無二の画家。
はじめに:鏡の中の自分だけを、生涯描き続けた理由
フリーダ・カーロ(1907-1954)は、メキシコを代表する画家であり、生涯に描いた油彩画の約3分の1にあたる55点が自画像という、極めて内省的な作家です。「私は自分自身をよく知っているから、自分を描く」と語った彼女の絵には、常にベッドに横たわりながら見上げる天井の鏡を通して描かれた、痛みと生命力が同居する自身の姿が刻まれています。太い一文字眉と鮮やかなメキシコの民族衣装(テワナ)は、彼女のアイデンティティと誇りの表明でもありました。
生涯:18歳の大事故と、消えることのない痛み
メキシコシティ郊外のコヨアカンに生まれたカーロは、6歳でポリオを患い右脚に障害を負います。18歳の時、乗っていたバスが路面電車と衝突する大事故に遭い、鉄の手すりが腹部を貫通する重傷を負いました。この事故による脊椎や骨盤の損傷は生涯にわたり彼女を苦しめ、30回以上の手術と、コルセットでの闘病生活を強いることになります。療養中、ベッドの天井に取り付けた鏡を見ながら自画像を描き始めたことが、画家としての出発点でした。1929年、壁画家ディエゴ・リベラと結婚しますが、互いの不倫や流産の悲しみに苦しみながらも、生涯にわたって強く惹かれ合う関係を続けました。
3つの代表作解説
- 二人のフリーダ(メキシコ近代美術館): ヨーロッパ風のドレスを着た自分と、メキシコの民族衣装を着た自分が手をつなぐ、アイデンティティの二重性を描いた大作。リベラとの離婚直後に制作されました。
- 折れた背骨(ドロレス・オルメド・コレクション): ひび割れた古代ギリシャ風の柱が自らの背骨として体を貫き、全身に無数の釘が突き刺さる姿を描いた、身体的苦痛を赤裸々に表現した衝撃的な作品。
- 荊(いばら)の首飾りとハチドリのある自画像: 血を流す茨の首飾りに、死の象徴である黒猫と、生命の象徴であるハチドリが寄り添う自画像。苦痛と再生が同居するカーロの世界観を凝縮しています。